今回は久々に60cards.netから。
かなり長めですが、デッキ構築に関する記事を紹介します。著者のJoao Lopes(ジョアン・ロペスと読むのでしょう)は去年のポルトガル大会の優勝者です。
内容は、いかにデッキを組むか。そしてデッキのやりたいこととは何か。
2008年の世界大会で優勝したサーナイト/エルレイド(PLOX)のリストを例に取り、デッキ構築について解説しています。
長い記事ですが、その分量に見合った抜群の面白さです。カードと直接関係のない部分もありますが、そこも非常に面白く読めると思います。
DP時代のカードが多く登場するため、当時を知っている方は、懐かしく思いながらお読みいただければと思います。また、知らない方でも、興味があればぜひ調べていただければと思います。どれも一世を風靡したカードたちです。
ちなみにタイトルにパート2とある通り、この記事はパート1もあります。今回パート2を訳したのは、単純にこちらの方が面白いからです。
いつもどおり、訳語の至らなさや誤訳の責任は、すべて僕うきにんに属します。
読みやすさを考慮して、改行を変更した部分があります。
(今回も例によって無許可翻訳なので、何かあればすぐに削除します)
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What to play? A non time fixed analysis of decklist choosing -- Part 2
Sunday, December 22, 2013
by Joao Lopes
ttp://60cards.net/blog/posts/detail/120
■デッキ構築は、ときに芸術と見なされる。
自分も含め、デッキ構築が趣味であり、かつ時間潰しの道具になる人もいる。デッキ構築はパズルのようなものだ。そこでならあなたはクリエイティブになることができ、新しい戦術を編み出せる。あるいは頭のおかしい勝ち方を想像して、メタゲームを倒すべく絶えずチャレンジすることができる。それは、デザインとソリューションの両立のようなものだ。
誰もが時間をかけてデッキ構築について書くわけではない。だからこそ、デッキはプレイテストにかけられ、調整をされる。デッキリストを拾ってきて使う人もいれば、デッキを自分で作り、自分の想像物を誇りにする人もいる。それは人それぞれだ。
デッキを作ったのが誰であったかに関わらず、あなたの選んだ60枚の束は、大会でどれだけやれるかを最も決定付ける要因になる。この一連の記事を書いている理由は、デッキを決める際に、念頭に置くべきものごとをすっかり理解してほしいからだ。願わくは、読者には何か新しいことを知っていってほしいと思う。もし書かれていることがすでにわかりきったことならば、それはあなたが正しい道を進んでいるということだ。この記事は、デッキ構築そのものではなく、大会で使う構築を選択することについて書かれている。これは、さきほど上で触れたプレイヤーそれぞれの側にとって、魅力的に映るはずだ。
ほとんどの場合、勝敗を決定付けるのはマッチアップだ。あなたは練習でひとつの構築だけを他のデッキと対戦させるかもしれないが、一方で上手いプレイヤーは、そのマッチアップを交互に行い、そして多くの場合、優れた構築が勝ち残るようにしている。
もちろんこのことは、プレイミスの可能性や運の要素があるがゆえに、常に当てはまるとは限らない。それでも、ここで話しているのは、普通の店舗大会ではなく、より高いレベルの場に向けたデッキリスト選びだ。そのため、両者による完璧なプレイングを常に想定しなければならない。
今回は、成功したデッキリストに踏み込んでみたい。なぜそれが他のものと違うのか、そして、その選択に至った理由は何なのか。このパート2の例として選んだのはこれだ。
■成功例:Jason Klaczynski、2008年世界大会
3度の世界大会優勝者であるJasonは、極めて基本に忠実なプレイングで知られている。彼は自分のプレイングの能力を信頼しており、ゆえにデッキリストは、その自信を反映したものになっている。彼は絶好の参考例となるはずだ。それでは、デッキリスト選択の際の彼の考え方に目を向け、それが対戦中にどう機能したかを見てみよう。
まず始めに、当時の背景を覗いてみたい。
■2007-2008年のメタゲーム
時は2007年にさかのぼる。ダイヤモンド&パールが絶妙なタイミングで世に出て、アメリカ選手権と世界大会を震撼させた。そこでは恒例のカードパワーの上昇が行われた(あらゆる新シリーズの最初の弾と同様だ)が、後に続いたセットと比べてみれば、それも霞んで見える(これもあらゆる新シリーズ最初の弾と同様だ)。
〔※訳注:DP初弾が出たのは2007年のNationals直前の5月〕
新セット登場によって、exの入っていないデッキが環境を制圧しつつあった。その理由は、それらのカードが旧来のexに匹敵するカードパワーを持っていたからだ。
ホロンのポワルン(PCG7)やオニドリルδ(PCG8)といったカードは、いまだデルタ種デッキを機能させてはいた。最も強力だったのがフライゴンexδ(PCG9)で、それに内蔵されたエンジン(フライゴンδ(PCG7))と強いたねのおかげで、周囲のカードパワー上昇の中でも、いまだに勢力を保ってはいた。それは、exの時代における最後の戦士だった。
2008年、その年の最初のエキスパンションであるGreat Encounters〔※訳注:DP4前後に相当〕が世に出ると、そこには、ポケカ史上で最も安定したドローエンジンが入っていた。ネンドールだ。それによって、2進化デッキの速度が何倍にもなり、馬鹿げた場の組み立てもできるようになった。おまけに、山札切れで負けることもなくなった。
もちろん、このエキスパンションから得られた良いカードはそれだけではなかった。ダークライLv.Xはマニューラと組み合わせればファンデッキの要になったし、トゲキッスはデカブツデッキの中心だった(お供のブーバーンとホウオウはどちらもSecret Wondersに入っていた)。〔※訳注:デカブツデッキの原語はramp decks。他のTCGでも、エネに相当するカードを大量に使って巨大生物で攻撃するデッキを指します〕
この新しいドローエンジンが環境にもたらしたのは、完全に新しい何かというわけではなかった。けれども、ついにその最終形態が現れた。怪物デッキ、PLOXだ。
サーナイトとエルレイドは、2007年のSecret Wonders〔※訳注:DP3に相当〕で登場していた。その強さにも関わらず、リリース時には、2ターン目からの速攻デッキの新たな王様(ジュペッタex)や、1進化の重戦車(ブーバーン)がいた。さらにPLOXが活躍するのを押し留めていたのは、ぶっ壊れカードのアブソルや、ハピナス単速攻で使われていた封印の結晶だった。
ドローエンジンがなければ、PLOXは競争相手となるデッキたちについていくことはできなかった。またロック能力も、そこまで多くのポケパワーが使われていなかった当時はあまり強くなかった。
ここに至って、ついにPLOXはドローエンジンという武器を得た。そしてギンガ団の賭けのポテンシャルをフルに使うこともできるようになった。それが環境最強デッキになるのに、長くはかからなかった。
唯一のライバルはブーバーン(DP4)だったが、それとてさほど恐るるに足らなかった。ジュペッタ/ハピナスのような対策デッキが、PLOXを沈めるために作られた。ジュペッタ/サクラビスのようなデッキは、ブーバーンを倒せるようにできていた。
2008年のアメリカ選手権前の最後のエキスパンションは、Majestic Dawn〔※訳注:DP4の残り+@に相当〕だった。そしてそれは、その名の通り、この暗黒の時代にあって祈りを捧げるプレイヤーたちに、答えを与えてくれたのだった。〔※訳注:Majestic Dawnは直訳すれば「壮大な夜明け」〕
ペラップは、究極の「緊急脱出」用カードだ。エネなしで「ものまねむすめ」が撃てて、にげるコストもない。しかも、W虹経由のサイコロックを耐え、サイコカッターにはサイド1枚めくりを(W虹付きなら2枚を)強要できた。
リーフィアLv.Xはブーバーンにエネをコンスタントに加速する新しい方法であり、また他のイーブイ進化系を選んで使うことで、複数のアーキタイプに対抗できる利点があった。そしてリーフィアは、新たにやってきた相手への、強烈なカウンターにもなっていた。エンペルトだ。
エンペルト(EP08)は、堅牢なHPと、2つの優秀なワザを持っていた。
・デュアルスプラッシュは、相手のたねを一掃できたり、あとで相手を一撃で落とすための致命的なダメージを乗せておくことができる。
・みんなでなみのりは、当時ではエルレイドぐらいしか出しえないような狂ったダメージ量を叩き出すことができる。しかも時間経過で火力が減ることもない。このワザとデュアルスプラッシュとは最高のコンビネーションだ。またこのワザは、サーナイトのHPをちょうど10残す。けれどそれは、すぐにドータクンで倒すことが可能だった。
この巨大な銅鐸は、ポケパワーに強く依存したデッキ(さてどれのことだろう)に劇的に効いたし、ダメージばらまきはエンペルトの最良のパートナーだった。下のワザは、湖の結界がある状態で、スクランブルエネルギーから起動させてサーナイトを一撃で倒し返すというのがよく行われた。〔※訳注:これ上のワザのことでは……?〕
環境は、少しであれ活況を帯びてきていた。けれどその年、対策が大量に存在していたにもかかわらず、Gino LombardiがPLOXを駆ってアメリカ選手権を制した。このデッキは、それでもあまりに強かったのだ……。ではここから、Jasonが世界大会に向けて、どのように考えていたのかを見てみよう。
■環境最強デッキを組む
Pojoに投稿された彼のレポート〔※訳注:ttp://www.pojo.com/CardofTheDay/2008/8-22.shtml〕のおかげで、彼の戦略と、大会に向けて最終版のデッキリストを選ぶ上で何を考えていたのかを、じっくりと見ることができる。
前回の記事では、デッキリストを選ぶ際に踏んでおくべきステップの例を示した。年間を通じてのメタゲームとその変化は今追ってきたばかりだから、環境は理解できている。ならばステップ2の時間だ。選択肢を絞ろう。
この時点でのJasonは、2つのデッキの狭間にいた。そう、2という数字は、1つのデッキに納得できていない限りは、最終決定にたどり着くまで何度も繰り返し出てくる数字だ。もし選択肢が3つ残っているなら、そのうち1つは残り2つほどは良くないはずだから、早々に省かれてしまうだろう。
彼のレポートから直接引用してみたい。
Jasonの頭の中には目標があった。この目標は、デッキ構築の際のガイドラインのようなものだ。常識はいつも正しいのだろうか? そうとも限らない。
たいていのプレイヤーにとっての問題は、どこで立ち止まるべきかがわからないことだ。我々はみな、どこかの段階で自分の欲望に負け、ひとつの目標を打ち立てるのではなく、デッキ内に複数の目標を作ってしまう。
我々は誰もがこういった可能性を夢見る。完璧な手札を引けたら、完璧に場が整ったら、そして不確実性をすべて無視できたなら……しかしそれは、所詮は夢でしかない。「過ぎたるは及ばざるが如し」という古い教訓は、ポケカにもしっかりと当てはまる。デッキリスト内であれこれやろうとすればするほど、上手くいく可能性は下がっていく。シンプルな戦略が、一番上手くいくというのに。
もうひとつの誤解は、単純な目標を設定すると、デッキリストをオートパイロット的なものにしてしまうのではないか、というものだ。それは手札を運任せなものにしてしまい、自分の「究極のポケカスキル」を発揮して相手を凌駕する余地がなくなってしまうのではないか、というたぐいの誤解だ。
自分は折に触れてこの問題に取り組もうとしてきた。それなら今ここで扱うべきだろう……この誤解について、例を挙げて説明させてほしい。
ゲームデザインにおいて、挑戦的な場面の設定は、難易度を高めるということを意味しない。難解なマップやステージを作ることは容易だし、難易度の高いボスをデザインするのはさらに簡単だ。
ゲームデザインにおいて難しいのは、面白いものを作るというところにある。
何か困難なことを乗り越えたとき、頭を使って上手くやったと感じられたなら、そこに楽しさが生まれる。自分の自尊心が高まる体験が嫌な人はいるだろうか? こういった、能力を得られたという仮想体験は、みんながテレビゲームを好きな理由のひとつだ。もし自分が、もっと上手くなって勝ちたいのならば、何度も負けたらフラストレーションがたまってしまう。
これは誰かを批判しようとして言っているわけではない。単純に本当のことなのだ。
より厳密な例を出せば、こうなる。
テレビゲームのゲームデザインについて勉強してきて気がついたのは、パズルというものが直線的で単純な仕組みになっているということだ。直線的、という言葉で何が言えるのだろうか? それにはどれほどの利点があるのだろうか?
パズルをやる上で必要なのは、多くのステップを踏むことだ。そうすれば、さらに先へ進めるようになる。オブジェやスイッチをどこへ置くべきか、そしてどこでレーザーを反射させればいいかを、理解する必要もある。これらは他の要素と組み合わせられて、数多くのプラットフォームゲームやハック&スラッシュゲームで用いられている。理由は、それらが上手く機能するからだ……。
〔※訳注:ゲームの種類のうち前者は、スーパーマリオ等の、主人公が平面の台の上を移動するゲーム。後者は敵をひたすら叩き切っていくようなゲーム〕
そういったステップは単純だが、数は多くある。3つも博士号を持っている大学教授ならば、これらのステップ全部を高速でこなしたときに、自分が頭を使ったと感じるだろう。
我々も自分が頭を使ってできたと感じることがあるし、それは別に難しいことではない。8歳の子供でも、自分が頭を使ったと感じることはあるだろう。ここに何かのパターンはあるのだろうか?
たとえば、一匹の犬がパズルの参加者になったとして、そのパズルをIQ200の大学教授と同じスピードで解いたとする。この場面には出くわしたことがある。そのパズルは極めて直線的で、間違えようがないものだった。できる行動はつねに一通りしかなく、そのため常に正しいものになっていた。
それをパズルと呼びたくないのはなぜだろう? これは単純な、簡単な種類のものだが、それでもパズルだ。楽しく遊べる余地の多くあるパズルだ。世界で一番出来の悪い子供でも解くことができ、大学教授と同じくらい自分が頭を使えたと感じられるようなパズルだ。そしてその両者が、ともに楽しめるようなものなのだ。
自分のスキルが試されるようなものが欲しい? 頭を使うよう要求されるようなものが欲しい? ならばどうしてあなたはこんな記事を読んでいるのだろう。数学や論理学の問題集でも解けば良いはずなのに。だが、その通り、そんなものは楽しくないのだ……。
このことは、どういう形でポケカに当てはまるのだろうか?
相手を「倒す」方法としてあまりにたくさんのことをやろうとし、それぞれのシチュエーションに全く異なったやり方で対処しようとするデッキがある。
「あ、ドラゴンダイブを撃ったね? 罠に掛かったな。こっちの手札にはエテボースGとダブル無色があるから、その攻撃にはカウンターさせてもらうよ」
「そんなばかな、想定通りのマッチアップの想定通りの場面でこれを使われるだなんて。やるじゃないか! でもこちらにはハマナがあるから、ドクロッグGと超エネを持ってくるよ。エテボースかレントラーがサイドを取ってきたときの自動プレイだ。サイドいただくよ!」
どうだろうか? 直線的とは……。
それでもプレイヤーたちは、デッキ内で多くのことをやろうとしてしまう。特定の場面に対処できなくなるのを恐れるあまり、1枚挿しが20種類も入って、アタッカーの線があまりに細くなってしまったようなデッキを見たことはないだろうか。たとえば、
2 ゴウカザルFB
1 ゴウカザルFB Lv.X
2 レントラーGL
1 レントラーGL Lv.X
1 アグノム(DP5)
1 何か
1 何か
1 何か
…
…
…
1 プレミアボール
これの何が駄目なのだろうか? アタッカーの線の細さだ。なぜそうなってしまったのだろうか? スペースがないからだ。なぜスペースがなくなったのだろうか? 強烈なカウンターカードがこんなに必要だから? 恐らくこの時代最強のデッキであるにもかかわらずこんなにたくさん? でも、リカバリーが速くできないから。どうして? それはアタッカーの線が細いから……。
カウンターカードが頭を使うプレイのように見えてしまうがために、デッキ内のラインはどんどん複雑になっていく。そして、安定しなくなっていく。
アタッカーを引っ張るのにアグノムを必要とする2-1ラインは、頭を使いそうに見える。プレミアボールもアタッカーとの置き換えで、それをサーチできるようになっている。だがこれは、カードの致命的なサイド落ちの危険性を高め、パワースプレーされる可能性もあれば初手スタートの可能性もあるカードへの依存度を、いっそう高めるだけだ。実際、初手スタートするかスプレーされるかでアグノムを失ったら、どうにもならなくなってしまう。
これはただ大変になっているだけであり、賢くやれているわけではない。このリストは頭を使いそうなデザインに見えるが、単なる脆弱な構築に過ぎず、安定した立ち上がりをさせたい使用者にストレスを与えるだけだ。繰り返しになるが、こういった不出来な構築でも頭を使えたと感じるならば、それはただ多くの選択肢があったからに過ぎない。だが説明したとおり、実際、そんなのはただの幻想だ。
あらゆる場面でそれに応じた特定のプレイを必要とするというのは、対戦相手の行動に対して自動で反応するロボットになるということだ。事実、ギミックの詰め込み過ぎは、プレイを予想のできるものにする。相手がギミックを理解できてしまえば、サプライズ要素など消え去り、こちらが次にやろうとする行動を相手が知っているということになる(もっとも、安定しないデッキでちゃんと行動できればの話だが)。
おおざっぱにまとめればこういうことだ。相手に解答を探させるような、能動的なプレイヤーになろう。相手の行動に応じて解決策を探すような、受動的なプレイヤーになってはいけない。
ギミックと安定性を巡る永遠の葛藤については、次回の記事で触れようと思う。今は、誰もが知っている次の事実を指摘しておこう。
+ギミック=-安定性
同様に、
多くをやろうとすればするほど、できることは少なくなっていく。
■Jasonの優勝PLOXリスト
機能するデッキには目標がひとつしかないことは上で述べた。なぜJasonは2つ言っていたのだろうか?
目標は安定性だ。それは、常に自分の戦略を機能させてくれる。ミラーで強みを持たせるというのは、安定性に到達する上での心構えに過ぎない。強烈な対策ギミックを加えるというのは、それとは正反対のことだ。
あるマッチアップで強みを持たせるというのは、デッキに馴染むオプションを加えることで達成できる。それは、柔軟性のあるリストにすることを意味する。
強烈な対策カードは、ある特定の場面では有効だが、機械的なリアクションとなる。その一方で、柔軟性のあるカードならば、2つ以上の目的を持たせることができ、デッキのメイン戦略から外れることもない。それこそが本当の意味でのデッキに馴染むオプションといえる。それは、ただ自分が頭を使ったと感じるだけの幻想とは違うものだ。
では、デッキリストを見ていこう。
PLOX by Jason Klaczynski - 2008年世界大会優勝
4 ラルトス(DP3)
2 キルリア(DP3)
3 サーナイト(DP4)
1 サーナイトLv.X(DP4)
2 エルレイド(DP3)
2 ヤジロン(DP4)
2 ネンドール(DP4)
1 ヨマワル(DP1)
1 ヨノワール(DP1)
1 ペラップ(DP4)
1 ジラーチex(PCG8)
1 サンダース☆(promo)
彼のレポートと同じように、それぞれの部分を個別に見ていきたい。まずはポケモンからだ。
シンプルで、安定している。デッキの機能に忠実になろうというのがその考え方だ。相手より速く展開できれば、相手の対策カードも追いつけなくなる。
アタッカーのライン以外で目に付くのは、ヨノワールでの精神的なプレッシャー(相手デッキがアブソル(BW8)入りと知っている状況と比べてほしい)と、追加の「サイコロック」になるジラーチexだ。そして、サンダースが入っている……。
サンダースは柔軟性の最初の例だ。相手を一撃で倒すのに10点だけ足りなかったりすると、相手は追加の1ターンを得てしまう。サンダースは、サーチ可能なプラスパワーとなることで、そういった状況を避けることができる。そのような追加のダメージカウンターは、PLOXのダメージ計算では欠かせないものだ。
・W虹付きのサイコロックは、よく使われるたねポケを落とせないことがある(たとえばペラップ)。
・湖の結界が場にある状態で、PLOXはW虹付きだと相手のサーナイトに100ダメージ、エルレイドに120ダメージしか与えられない。
・サーナイトLv.Xはサイコロックを10残して耐える。
・ジラーチexのちょうねんりきはサーナイトに100ダメージしか飛ばない。
・エルレイドがエンペルトを落とすとき、サイド4枚ではなく3枚めくるだけで済むようになる。
・ホロンエネFFつきのハピナス(DP2)に対しても、サンダースなしだとエルレイドはサイドを4枚めくる破目になる。
・相手のジラーチexに対しても、サンダースなしだとエルレイドはサイド3枚の代わりに2枚めくりで済むようになる。〔※訳注:恐らく1枚の間違い?〕
これが柔軟性ということだ。それがお助けカードにしかならないようなマッチアップでも、少なくとも2つ以上の状況で働いてくれる。致命的な使い方のできるその他のマッチアップでなら、有効なギミックになりうる。
再びおおざっぱなまとめをしたい。死に札は作らないようにしよう。そしてほとんどの場合、対策カードは死に札なのだ。
4 ハマナのリサーチ
4 ニシキのネットワーク
2 ミズキの検索
2 ギンガ団の賭け
2 ダイゴのアドバイス
この記事の趣旨を鑑みれば、ここをあえて強調する必要はないだろう。安定した枚数が入っていて、ネンドールと、サーナイト(このデッキの核だ)を可能な限り速く立てることに注力されている。
4 ふしぎなアメ
2 暴風
2 ワープポイント
2 湖の結界
湖の結界については上で何度か触れたので、有用性は明らかだろう。
このカードの主な目的は、このデッキにとって重要なW虹やスクランブルを無効化してしまうクリスタルビーチを割ることだ。Jasonはスタジアムや封印の結晶を割るため暴風を2枚入れているだけでなく、様々な状況で便利なこのスタジアムも2枚入れている。同時にそれは、このデッキにとって脅威になるカードに対する、効果的なカウンターにもなっている。
繰り返しになるが、用途が多いということは、デッキの弱点を取り除くと同時に、死に札にならないということだ。より多くのオプション、さらなる安定性、そして、より高い柔軟性。
4 コールエネルギー
3 超エネルギー
1 サイクロンエネルギー
4 Wレインボーエネルギー
3 スクランブルエネルギー
このエネルギーの部分を最後に残したのは、特に興味深い箇所はないからだ。4枚のコールエネとW虹は高速展開の可能性を最大限に高めてくれるし、1枚おしゃれに積まれたサイクロンエネは、封印の結晶対策になると同時に、ダメージを稼がれてしまう相手の壁カードへの対策になっている。
このデッキを何度か(特にミラーを)回してみたあとでは、4枚目の超エネルギーがあっていいかもしれないと思った。だがそのために抜けそうなカードは、おそらくそのエネルギーよりも重要なカードだろう。
最後に、別のリストと見比べてみたい。
■比較例
PLOX by Gino Lombardi - 2008年世界大会3位, 2008年アメリカ選手権優勝
4 ラルトス(DP3-3,PCG6-1)
2 キルリア(DP3)
3 サーナイト(DP4)
1 サーナイトLv.X(DP4)
2 エルレイド(DP3)
2 ヤジロン(DP4)
2 ネンドール(DP4)
1 クレセリア(DP4)
1 クレセリアLv.X(DP4)
1 ベトベター(DP3)
1 ベトベトン(DP3)
1 パチリス(DP4)
1 ジラーチex(PCG8)
1 フィオネ(DP4)
3 ハマナのリサーチ
2 ニシキのネットワーク
2 ミズキの検索
2 ギンガ団の賭け
3 ダイゴのアドバイス
4 ふしぎなアメ
1 ワープポイント
1 湖の結界
1 夜のメンテナンス
1 ちからのかけら
2 フヨウのスタジアム
3 コールエネルギー
5 超エネルギー
4 Wレインボーエネルギー
3 スクランブルエネルギー
この年はGinoの黄金期だった。その年最大の大会で優勝し、そして世界大会でもトップ4になったのだから、偉業と言わず何と言おう。
このリストには、目立った欠点がいくつかある。
・初手スタートすると弱いカードが多い。
・貧弱なサポーターのライン
・封印の結晶への解答がない。
・コールエネルギーが3枚のみ。
ギミックが数多く詰め込まれているせいで、このデッキは、そう頻繁には完璧な立ち上がりができるわけじゃない。それに加えこのデッキには、ミラーマッチ以外では完全な死に札になる、対策カードが入っている。これだけ多くの1枚挿しがあると解答がサイド落ちする可能性があるし、クレセリアを手助けする手段がワープポイント1枚しかない。
サポーターラインを削り、ギミックを増やして、100%ポケパワーに依存したデッキにとっては、封印の結晶への対策がないのは致命的だ。クリスタルビーチを割るためにフヨウのスタジアムが2枚入っているが、ときたまいるキノガッサに好き放題やられるのを防げて、かつ非常に用途の多い湖の結界は、1枚しか入っていない。もうひとつ欠点を挙げればヨノワールが入っていないことだ。それだけで相手が息を吹き返せるだけの(文字通りの)余分なスペースを与えてしまう。そのスペースは、エンペルトが海辺でみんなでなみのりを(シャレじゃない)するのに欠かせないものだというのに。
それでもGinoは優秀なプレイヤーであり、このリストで相当に上の方まで進むことができた。そして、それは幸運のおかげだけではなかったのだ。
・ワープポイントが1枚だけとはいえ、フヨウのスタジアムはクレセリアを立てるのに大きな助けとなる。クレセリアは一度立ってしまえば、回復と同時に半永久的なプラスパワーになれる。エンペルトのデュアルスプラッシュに対しても強くなる。
・ベトベトンは強烈な対策カードだ。だが、よく機能した。W虹や起動済みのスクランブルエネのついた相手なら、何でも毒状態にできたのだ。このカードは特定の場面でのみ強いカードだが、それでも実際は大半のプレイヤーがPLOXを使っていたせいで、ミラーでの強烈な対策カードは、多大なアドバンテージになった。
・フィオネはW虹つきのサイコロックなら耐えることができ、その間にサーナイトやエルレイドを育てられる。パチリスでも同様のことが言えるが、思うにこのカードは、4枚目のコールエネの代わりになっていたのだ。
・ちからのかけらは、封印の結晶のようなどうぐを使ってくる多くの相手に対して、テレパス経由で探しに行くカードだ。だが、テレパスを止めてくる封印の結晶への対策がなければ、そこまで有効にはなりえない。またこのカードは、相手のサイコロックでサンダースが封じられた状況下で使うこともできる。
だが、過去に思いを巡らすことの意義とは何なのだろう? これらの話から、いったい何を得られるのだろうか。
異なったメタゲームや愛すべきゲームの歴史を学ぶことは楽しい。だがそれとは別に我々は、フォーマットに関係なく機能するものとは何かを学ぶことができる。
これらの記事の究極の目標は、プレイヤーが、どんなフォーマットにも、どんな状況にも適応できるよう手助けをすることだ。とあるプレイヤーがとあるデッキで結果を残せていたとしても、そのプレイヤーは、別のデッキでは結果を残せないかもしれないし、新弾が出ても自分のデッキをそれに適応させられないかもしれない。つまるところ、この記事がやりたいのは、プレイヤーの小さなミスを見つけ、スキルを完璧なものにするための手助けをすることだ。
少し先走りすぎたかもしれないが、ここで、学んできたことを使ってひとつ実践的なサンプルを見せたいと思う。
■トップメタデッキにおける柔軟性:現代編
自分の考えでは、完成形になって以来ずっと強力で、かつローテーションまで消えないであろうデッキのひとつは、カメックスだ。
このデッキは強いデッキだと誰もが知っているし、当たったときのために準備をする必要がある。そのため、大会でカメックスを使うのは悪くない賭けだと考えてもいい。プレイがあまり難しくなく、非常に強力だ。
目の前には、他のプレイヤーにとって脅威になるデッキがある。彼らがこのカメックスを脅威と感じる理由を、下記のガイドラインから裏付けてみよう。
安定させること。そしてその延長線上で、ミラーで強みを持たせること。また、ありがちな欠点に対して、柔軟な解決策を持たせること。
まずはポケモンから始めよう。
Standard Blastoise by Joao Lopes
4 ゼニガメ
3 カメックス
2 ケルディオEX
2 ブラックキュレムEX
1 ブラックキュレム
1 ジラーチEX
1 タマタマ
ポケモンキャッチャーが無くなったことで、ジラーチEXはカメックスにとって手堅い利点になった。ジラーチEXは、ハイパーボールや、ときにはレベルボールを、ビーチや、アメや、カメックスや、アララギや、スーエネ回収や、Nにも変えてくれる。このおかげで安定性が驚くほど増しているし、1ターン目のゼニガメ/ビーチや2ターン目のカメックス+アタッカーのような破壊的な展開を手助けしてくれる。
カードを少し引いたあとでならカメックスを見つけるのは容易だが、ゼニガメでスタートするのは簡単ではない。そのため、安定性を最大化するのにゼニガメ4は必須だ。余ったゼニガメは、あとでハイパーボールやスーエネ回収で捨てることができる。
カードを捨てることに関して言えば、このデッキのすべてのカードはあのおおざっぱなまとめ話に従っている。つまり、どんなマッチアップでも、無駄になるカードは入っていない。それを頭に入れておくと、上で触れたボール系や回収系は、捨てる余裕のないはずのカードを切ってしまう破目に陥る、ということになる。コストを軽減するためのタマタマは、1キルがほとんどない環境なので、安全に使うことができる。
アタッカーについては、それぞれを2枚ずつ入れれば十分に足りる。3枚目は必要にならないし、デッキがきちんと動けば1枚でもたいてい非常に良い仕事をしてくれる。考え方としては、ほとんどの対戦で非EXポケモン1枚とEXポケモンを2枚倒されるということになっている。アタッカーが4枚いれば、3枚目のEXがゲーム終盤で使えるようになるだろう。
さて、柔軟性のあるカードでミラーに強みを持たせよう。非EXのブラックキュレムだ。これはよく知られたギミックだが、そこまで使われてはいない。ドラゴンの殴り合いになればこのカードは1枚でサイド2枚と交換になり、相手のプランを崩壊させられる。この見え見えの使い道以外だと、バトル場に放置された相手のゼニガメやタマタマをこれで倒すというものがある。自分のデカブツをわざわざ危ないところに出さなくて済む、というわけだ。
ミラー以外だと、非EXポケモンがいれば重要なアタッカーを使わず生かしたままにしておける。一番良くある相手がヤミラミだ。このオプションは、考える以上に有効だ。また、このカードがあれば、ケルディオEXが倒されたあとでもガブリアスあたりの適当なドラゴンを狩ることができるし、レックエンブのような相性の悪いマッチアップも5分5分で戦うことができる。
4 アララギ博士
3 N
4 フウロ
2 アクロマ
自分はいつもサポーターの最低ラインは14枚にしているが、今回の場合は、ジラーチEXがボールをサポーターに変えてくれる。そのため、サポーターの枚数カウントはもっと多いものとして扱える。
ここでもうひとつ指摘したいのは、4枚目のNを入れていないことだ。Nは本当に強力なサポーターだが、このデッキは、Nを使い倒せるようなデッキではない。その代わり、アクロマ2枚が、中終盤では最強のサポーターになってくれる。ときにアクロマの入っていないデッキがあるのは、このカードが序盤では役立たずだからだ。だがこのデッキなら序盤はフウロとトロピカルビーチに依存するし、サポーターを切り替えるころには、アクロマはオーキド博士の新理論と同等かそれ以上の働きをしてくれる。それでもN3枚とアクロマ2枚にしているのは、このデッキが序盤の数ターンで展開する必要があること、そして、デッキのメインの目的に絞って構築する必要があるからだ。
フウロ4枚は疑いの余地ない選択だ。このデッキが一番必要とするカードであるし、このデッキの手札はいつも、完璧なものからはグッズ1枚ぶん足りない。そういうとき、フウロは最高の相方になってくれる。アララギに関して言えば……アララギはアララギだ。可能なら、10枚でも使いたいカードだ。
4 ハイパーボール
2 レベルボール
4 ふしぎなアメ
4 スーパーエネルギー回収
3 トロピカルビーチ
2 ツールスクラッパー
2 エネルギー転送
1 ポケモン回収サイクロン
ボール系が6枚というのは、Jasonのデッキでサーチ系のサポーターが6枚だったのと同様だ。ここでは、2ターン目のカメックスを保障してくれる。ハイパーボールを最大枚数入れておけば、1ターン目にゼニガメを引く方法は6枚もあるし、2ターン目にカメックスやアタッカーを引くカードも4枚確保できる。
ダストダスが常に脅威である以上は、ツールスクラッパー投入はマストだ(封印の結晶に対しての暴風と同じだ)。おまけとして、エンペルト(最近流行ってきている)のシルバーバングルを剥がすことができるし、他のデッキのかるいしを剥がして妨害することもできる。
2枚のエネルギー転送は、この氷のドラゴンのために雷エネルギーを引くのに必要であり、またケルディオのために水エネルギーを確保する手段でもある。困ったときにはフウロがエネにもなる。2枚しか入れていないのは、エネの総数を減らしてあっという間にエネ切れを起こすのを防ぐためだ。
ポケモン回収サイクロンは、自分の住んでいる地域でカメックスを使っているプレイヤーから拝借したアイディアだ。まんたんのくすりよりも強いカードだし、ジラーチEXを再利用したり、エネを捨てずに逃げることができたりと、多くの場面で使えるカードだ。構築が安定していればパソコン通信は必ずしも必要ではないし、このカードは、相手の前のターンの動きを無駄にできたり、それ以上のこともできる。
2 雷エネルギー
9 水エネルギー
エネルギー転送は、水と雷の両方を探せるという点以外にも、雷エネの実数を削って水エネの使える量を増やせるという点がある。
このデッキリストは、オプションを組み入れつつ安定性を目指すという原則に基づいて構築されたものだ。カメックスのような、動きが一直線なデッキでも、それは可能だ。
もちろん、環境や、そのプレイヤーのメタ読みの能力にも依存する。数枚変えただけで、特定のマッチアップ相性が改善することだってある。とはいえ、環境への適応については、日を改めて議論をするとしよう……。
■結論
複雑な戦術が展開できたときの美しい光景には、みなが魅了されがちだ。だが現実は、手の込んだことをやって失敗するよりも、シンプルなことを正しくやるのが一番なのだ。
当たり前の知恵は忘れられやすい。我々はみな、戦術を完遂して純粋な安定性で勝ちに行くよりも、あらゆるデッキに対して何らかの解答を用意しようとしてしまう。
ある状況で強いカードは、別の状況では邪魔なカードになる。柔軟性は、ギミックと安定性のあいだでバランスを保ってくれるものなのだ。
次の記事ではデッキ構築における別の要素について書いてみたい。大会だ。League Challengeから世界大会まで、その違いを見出すのは簡単だ。つまり、難易度が上がり、プレイヤーが増える。だが、とある構築が大会環境に合っていたとして、その翌年には、その大会環境に合う構築が全く変わってしまうとしたら?
次回は、環境に適応することについてだ。Pesadelo Prism (2012)とStraight Darkrai (2013)を取り上げてみたい。〔※訳注:前者は2012年の世界大会優勝のダークライM2。後者は恐らく2013年の世界大会優勝のダークライ。〕
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
以上になります。お読みいただきありがとうございました。
文字数にして15000超えという非常に長い記事でした。それでも、最後までお読みいただいた方にとっては、必ずや得られるものがあっただろうと思います。
かく言う僕にとっても、実は2007~2008年ごろは某MtGにかまけていたので、なかなか新鮮な内容の多い記事でした。
ふたつのサーナイト/エルレイドの比較のあたりは白眉ですね。また、ゲームデザインを例に出して、なぜギミックは有効性が低いのかを語るくだりも、大変ためになるものだったと思います。
この著者は、次回はふたつのダークライデッキを取り上げてくれるようですね。次回にも期待大です。
かなり長めですが、デッキ構築に関する記事を紹介します。著者のJoao Lopes(ジョアン・ロペスと読むのでしょう)は去年のポルトガル大会の優勝者です。
内容は、いかにデッキを組むか。そしてデッキのやりたいこととは何か。
2008年の世界大会で優勝したサーナイト/エルレイド(PLOX)のリストを例に取り、デッキ構築について解説しています。
長い記事ですが、その分量に見合った抜群の面白さです。カードと直接関係のない部分もありますが、そこも非常に面白く読めると思います。
DP時代のカードが多く登場するため、当時を知っている方は、懐かしく思いながらお読みいただければと思います。また、知らない方でも、興味があればぜひ調べていただければと思います。どれも一世を風靡したカードたちです。
ちなみにタイトルにパート2とある通り、この記事はパート1もあります。今回パート2を訳したのは、単純にこちらの方が面白いからです。
いつもどおり、訳語の至らなさや誤訳の責任は、すべて僕うきにんに属します。
読みやすさを考慮して、改行を変更した部分があります。
(今回も例によって無許可翻訳なので、何かあればすぐに削除します)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
What to play? A non time fixed analysis of decklist choosing -- Part 2
Sunday, December 22, 2013
by Joao Lopes
ttp://60cards.net/blog/posts/detail/120
■デッキ構築は、ときに芸術と見なされる。
自分も含め、デッキ構築が趣味であり、かつ時間潰しの道具になる人もいる。デッキ構築はパズルのようなものだ。そこでならあなたはクリエイティブになることができ、新しい戦術を編み出せる。あるいは頭のおかしい勝ち方を想像して、メタゲームを倒すべく絶えずチャレンジすることができる。それは、デザインとソリューションの両立のようなものだ。
誰もが時間をかけてデッキ構築について書くわけではない。だからこそ、デッキはプレイテストにかけられ、調整をされる。デッキリストを拾ってきて使う人もいれば、デッキを自分で作り、自分の想像物を誇りにする人もいる。それは人それぞれだ。
デッキを作ったのが誰であったかに関わらず、あなたの選んだ60枚の束は、大会でどれだけやれるかを最も決定付ける要因になる。この一連の記事を書いている理由は、デッキを決める際に、念頭に置くべきものごとをすっかり理解してほしいからだ。願わくは、読者には何か新しいことを知っていってほしいと思う。もし書かれていることがすでにわかりきったことならば、それはあなたが正しい道を進んでいるということだ。この記事は、デッキ構築そのものではなく、大会で使う構築を選択することについて書かれている。これは、さきほど上で触れたプレイヤーそれぞれの側にとって、魅力的に映るはずだ。
ほとんどの場合、勝敗を決定付けるのはマッチアップだ。あなたは練習でひとつの構築だけを他のデッキと対戦させるかもしれないが、一方で上手いプレイヤーは、そのマッチアップを交互に行い、そして多くの場合、優れた構築が勝ち残るようにしている。
もちろんこのことは、プレイミスの可能性や運の要素があるがゆえに、常に当てはまるとは限らない。それでも、ここで話しているのは、普通の店舗大会ではなく、より高いレベルの場に向けたデッキリスト選びだ。そのため、両者による完璧なプレイングを常に想定しなければならない。
今回は、成功したデッキリストに踏み込んでみたい。なぜそれが他のものと違うのか、そして、その選択に至った理由は何なのか。このパート2の例として選んだのはこれだ。
■成功例:Jason Klaczynski、2008年世界大会
3度の世界大会優勝者であるJasonは、極めて基本に忠実なプレイングで知られている。彼は自分のプレイングの能力を信頼しており、ゆえにデッキリストは、その自信を反映したものになっている。彼は絶好の参考例となるはずだ。それでは、デッキリスト選択の際の彼の考え方に目を向け、それが対戦中にどう機能したかを見てみよう。
まず始めに、当時の背景を覗いてみたい。
■2007-2008年のメタゲーム
時は2007年にさかのぼる。ダイヤモンド&パールが絶妙なタイミングで世に出て、アメリカ選手権と世界大会を震撼させた。そこでは恒例のカードパワーの上昇が行われた(あらゆる新シリーズの最初の弾と同様だ)が、後に続いたセットと比べてみれば、それも霞んで見える(これもあらゆる新シリーズ最初の弾と同様だ)。
〔※訳注:DP初弾が出たのは2007年のNationals直前の5月〕
新セット登場によって、exの入っていないデッキが環境を制圧しつつあった。その理由は、それらのカードが旧来のexに匹敵するカードパワーを持っていたからだ。
ホロンのポワルン(PCG7)やオニドリルδ(PCG8)といったカードは、いまだデルタ種デッキを機能させてはいた。最も強力だったのがフライゴンexδ(PCG9)で、それに内蔵されたエンジン(フライゴンδ(PCG7))と強いたねのおかげで、周囲のカードパワー上昇の中でも、いまだに勢力を保ってはいた。それは、exの時代における最後の戦士だった。
2008年、その年の最初のエキスパンションであるGreat Encounters〔※訳注:DP4前後に相当〕が世に出ると、そこには、ポケカ史上で最も安定したドローエンジンが入っていた。ネンドールだ。それによって、2進化デッキの速度が何倍にもなり、馬鹿げた場の組み立てもできるようになった。おまけに、山札切れで負けることもなくなった。
もちろん、このエキスパンションから得られた良いカードはそれだけではなかった。ダークライLv.Xはマニューラと組み合わせればファンデッキの要になったし、トゲキッスはデカブツデッキの中心だった(お供のブーバーンとホウオウはどちらもSecret Wondersに入っていた)。〔※訳注:デカブツデッキの原語はramp decks。他のTCGでも、エネに相当するカードを大量に使って巨大生物で攻撃するデッキを指します〕
この新しいドローエンジンが環境にもたらしたのは、完全に新しい何かというわけではなかった。けれども、ついにその最終形態が現れた。怪物デッキ、PLOXだ。
サーナイトとエルレイドは、2007年のSecret Wonders〔※訳注:DP3に相当〕で登場していた。その強さにも関わらず、リリース時には、2ターン目からの速攻デッキの新たな王様(ジュペッタex)や、1進化の重戦車(ブーバーン)がいた。さらにPLOXが活躍するのを押し留めていたのは、ぶっ壊れカードのアブソルや、ハピナス単速攻で使われていた封印の結晶だった。
ドローエンジンがなければ、PLOXは競争相手となるデッキたちについていくことはできなかった。またロック能力も、そこまで多くのポケパワーが使われていなかった当時はあまり強くなかった。
ここに至って、ついにPLOXはドローエンジンという武器を得た。そしてギンガ団の賭けのポテンシャルをフルに使うこともできるようになった。それが環境最強デッキになるのに、長くはかからなかった。
唯一のライバルはブーバーン(DP4)だったが、それとてさほど恐るるに足らなかった。ジュペッタ/ハピナスのような対策デッキが、PLOXを沈めるために作られた。ジュペッタ/サクラビスのようなデッキは、ブーバーンを倒せるようにできていた。
2008年のアメリカ選手権前の最後のエキスパンションは、Majestic Dawn〔※訳注:DP4の残り+@に相当〕だった。そしてそれは、その名の通り、この暗黒の時代にあって祈りを捧げるプレイヤーたちに、答えを与えてくれたのだった。〔※訳注:Majestic Dawnは直訳すれば「壮大な夜明け」〕
ペラップは、究極の「緊急脱出」用カードだ。エネなしで「ものまねむすめ」が撃てて、にげるコストもない。しかも、W虹経由のサイコロックを耐え、サイコカッターにはサイド1枚めくりを(W虹付きなら2枚を)強要できた。
リーフィアLv.Xはブーバーンにエネをコンスタントに加速する新しい方法であり、また他のイーブイ進化系を選んで使うことで、複数のアーキタイプに対抗できる利点があった。そしてリーフィアは、新たにやってきた相手への、強烈なカウンターにもなっていた。エンペルトだ。
エンペルト(EP08)は、堅牢なHPと、2つの優秀なワザを持っていた。
・デュアルスプラッシュは、相手のたねを一掃できたり、あとで相手を一撃で落とすための致命的なダメージを乗せておくことができる。
・みんなでなみのりは、当時ではエルレイドぐらいしか出しえないような狂ったダメージ量を叩き出すことができる。しかも時間経過で火力が減ることもない。このワザとデュアルスプラッシュとは最高のコンビネーションだ。またこのワザは、サーナイトのHPをちょうど10残す。けれどそれは、すぐにドータクンで倒すことが可能だった。
この巨大な銅鐸は、ポケパワーに強く依存したデッキ(さてどれのことだろう)に劇的に効いたし、ダメージばらまきはエンペルトの最良のパートナーだった。下のワザは、湖の結界がある状態で、スクランブルエネルギーから起動させてサーナイトを一撃で倒し返すというのがよく行われた。〔※訳注:これ上のワザのことでは……?〕
環境は、少しであれ活況を帯びてきていた。けれどその年、対策が大量に存在していたにもかかわらず、Gino LombardiがPLOXを駆ってアメリカ選手権を制した。このデッキは、それでもあまりに強かったのだ……。ではここから、Jasonが世界大会に向けて、どのように考えていたのかを見てみよう。
■環境最強デッキを組む
Pojoに投稿された彼のレポート〔※訳注:ttp://www.pojo.com/CardofTheDay/2008/8-22.shtml〕のおかげで、彼の戦略と、大会に向けて最終版のデッキリストを選ぶ上で何を考えていたのかを、じっくりと見ることができる。
前回の記事では、デッキリストを選ぶ際に踏んでおくべきステップの例を示した。年間を通じてのメタゲームとその変化は今追ってきたばかりだから、環境は理解できている。ならばステップ2の時間だ。選択肢を絞ろう。
この時点でのJasonは、2つのデッキの狭間にいた。そう、2という数字は、1つのデッキに納得できていない限りは、最終決定にたどり着くまで何度も繰り返し出てくる数字だ。もし選択肢が3つ残っているなら、そのうち1つは残り2つほどは良くないはずだから、早々に省かれてしまうだろう。
彼のレポートから直接引用してみたい。
一方の手にあったのは、サーナイト/エルレイドでした……。見てきたとおり、メリットとデメリットを並べ、それらを照らし合わせるのは、最後の段階の選択を吟味する上で、また、決定版リストへ「根拠」を与えるという意味でも、一番良い方法だ。この「根拠」は自信の元になるし、ときには時間ぎりぎりの調整で悪い方へ進むのを防いでくれる。
1.これは私が今シーズンずっと使ってきたデッキでした。ポケカにおいては、大会に出る際に、慣れないデッキで出ることほど不愉快なことはありません。
2.サーナイト/エルレイドには、不利なマッチアップはありませんでした。確かに、エンペルト/ドータクンにはこのデッキに対する強みがあります。でも、それはどれほどでしょうか?
3.エンペルト/ドータクンを使っていたプレイヤーの多くは、そこまで上手いプレイヤーではありませんでした。トッププレイヤーたちは、サーナイト/エルレイドの方を気に入っているようでした。
4.エンペルトはダグトリオ(PCG8)で対策される可能性もありました。
仮にエンペルト/ドータクンの肩を持つならば……、
1.このデッキは、現状もっとも使われているデッキを倒すことができました。サーナイト/エルレイドです。一番使われているデッキへの対抗策を持たずに、世界大会を勝つことはできるでしょうか?
2.世界大会の時間制限が40分に延長されました。エンペルトは、ときどき30分では勝ちきれないことがありました。
最終的に、私は腹を決めました。サーナイト/エルレイドを使うことにしたのです。そしてまた、私は、振り返ったときに、大会において限りなく完璧なリストだったと言えるものを使うことにしました。私のデッキリストは、ふたつの考え方を巡って作られています。
1.安定しているか
2.ミラーでの決め手はあるか
Jasonの頭の中には目標があった。この目標は、デッキ構築の際のガイドラインのようなものだ。常識はいつも正しいのだろうか? そうとも限らない。
たいていのプレイヤーにとっての問題は、どこで立ち止まるべきかがわからないことだ。我々はみな、どこかの段階で自分の欲望に負け、ひとつの目標を打ち立てるのではなく、デッキ内に複数の目標を作ってしまう。
我々は誰もがこういった可能性を夢見る。完璧な手札を引けたら、完璧に場が整ったら、そして不確実性をすべて無視できたなら……しかしそれは、所詮は夢でしかない。「過ぎたるは及ばざるが如し」という古い教訓は、ポケカにもしっかりと当てはまる。デッキリスト内であれこれやろうとすればするほど、上手くいく可能性は下がっていく。シンプルな戦略が、一番上手くいくというのに。
もうひとつの誤解は、単純な目標を設定すると、デッキリストをオートパイロット的なものにしてしまうのではないか、というものだ。それは手札を運任せなものにしてしまい、自分の「究極のポケカスキル」を発揮して相手を凌駕する余地がなくなってしまうのではないか、というたぐいの誤解だ。
自分は折に触れてこの問題に取り組もうとしてきた。それなら今ここで扱うべきだろう……この誤解について、例を挙げて説明させてほしい。
ゲームデザインにおいて、挑戦的な場面の設定は、難易度を高めるということを意味しない。難解なマップやステージを作ることは容易だし、難易度の高いボスをデザインするのはさらに簡単だ。
ゲームデザインにおいて難しいのは、面白いものを作るというところにある。
何か困難なことを乗り越えたとき、頭を使って上手くやったと感じられたなら、そこに楽しさが生まれる。自分の自尊心が高まる体験が嫌な人はいるだろうか? こういった、能力を得られたという仮想体験は、みんながテレビゲームを好きな理由のひとつだ。もし自分が、もっと上手くなって勝ちたいのならば、何度も負けたらフラストレーションがたまってしまう。
これは誰かを批判しようとして言っているわけではない。単純に本当のことなのだ。
より厳密な例を出せば、こうなる。
テレビゲームのゲームデザインについて勉強してきて気がついたのは、パズルというものが直線的で単純な仕組みになっているということだ。直線的、という言葉で何が言えるのだろうか? それにはどれほどの利点があるのだろうか?
パズルをやる上で必要なのは、多くのステップを踏むことだ。そうすれば、さらに先へ進めるようになる。オブジェやスイッチをどこへ置くべきか、そしてどこでレーザーを反射させればいいかを、理解する必要もある。これらは他の要素と組み合わせられて、数多くのプラットフォームゲームやハック&スラッシュゲームで用いられている。理由は、それらが上手く機能するからだ……。
〔※訳注:ゲームの種類のうち前者は、スーパーマリオ等の、主人公が平面の台の上を移動するゲーム。後者は敵をひたすら叩き切っていくようなゲーム〕
そういったステップは単純だが、数は多くある。3つも博士号を持っている大学教授ならば、これらのステップ全部を高速でこなしたときに、自分が頭を使ったと感じるだろう。
我々も自分が頭を使ってできたと感じることがあるし、それは別に難しいことではない。8歳の子供でも、自分が頭を使ったと感じることはあるだろう。ここに何かのパターンはあるのだろうか?
たとえば、一匹の犬がパズルの参加者になったとして、そのパズルをIQ200の大学教授と同じスピードで解いたとする。この場面には出くわしたことがある。そのパズルは極めて直線的で、間違えようがないものだった。できる行動はつねに一通りしかなく、そのため常に正しいものになっていた。
それをパズルと呼びたくないのはなぜだろう? これは単純な、簡単な種類のものだが、それでもパズルだ。楽しく遊べる余地の多くあるパズルだ。世界で一番出来の悪い子供でも解くことができ、大学教授と同じくらい自分が頭を使えたと感じられるようなパズルだ。そしてその両者が、ともに楽しめるようなものなのだ。
自分のスキルが試されるようなものが欲しい? 頭を使うよう要求されるようなものが欲しい? ならばどうしてあなたはこんな記事を読んでいるのだろう。数学や論理学の問題集でも解けば良いはずなのに。だが、その通り、そんなものは楽しくないのだ……。
このことは、どういう形でポケカに当てはまるのだろうか?
相手を「倒す」方法としてあまりにたくさんのことをやろうとし、それぞれのシチュエーションに全く異なったやり方で対処しようとするデッキがある。
「あ、ドラゴンダイブを撃ったね? 罠に掛かったな。こっちの手札にはエテボースGとダブル無色があるから、その攻撃にはカウンターさせてもらうよ」
「そんなばかな、想定通りのマッチアップの想定通りの場面でこれを使われるだなんて。やるじゃないか! でもこちらにはハマナがあるから、ドクロッグGと超エネを持ってくるよ。エテボースかレントラーがサイドを取ってきたときの自動プレイだ。サイドいただくよ!」
どうだろうか? 直線的とは……。
それでもプレイヤーたちは、デッキ内で多くのことをやろうとしてしまう。特定の場面に対処できなくなるのを恐れるあまり、1枚挿しが20種類も入って、アタッカーの線があまりに細くなってしまったようなデッキを見たことはないだろうか。たとえば、
2 ゴウカザルFB
1 ゴウカザルFB Lv.X
2 レントラーGL
1 レントラーGL Lv.X
1 アグノム(DP5)
1 何か
1 何か
1 何か
…
…
…
1 プレミアボール
これの何が駄目なのだろうか? アタッカーの線の細さだ。なぜそうなってしまったのだろうか? スペースがないからだ。なぜスペースがなくなったのだろうか? 強烈なカウンターカードがこんなに必要だから? 恐らくこの時代最強のデッキであるにもかかわらずこんなにたくさん? でも、リカバリーが速くできないから。どうして? それはアタッカーの線が細いから……。
カウンターカードが頭を使うプレイのように見えてしまうがために、デッキ内のラインはどんどん複雑になっていく。そして、安定しなくなっていく。
アタッカーを引っ張るのにアグノムを必要とする2-1ラインは、頭を使いそうに見える。プレミアボールもアタッカーとの置き換えで、それをサーチできるようになっている。だがこれは、カードの致命的なサイド落ちの危険性を高め、パワースプレーされる可能性もあれば初手スタートの可能性もあるカードへの依存度を、いっそう高めるだけだ。実際、初手スタートするかスプレーされるかでアグノムを失ったら、どうにもならなくなってしまう。
これはただ大変になっているだけであり、賢くやれているわけではない。このリストは頭を使いそうなデザインに見えるが、単なる脆弱な構築に過ぎず、安定した立ち上がりをさせたい使用者にストレスを与えるだけだ。繰り返しになるが、こういった不出来な構築でも頭を使えたと感じるならば、それはただ多くの選択肢があったからに過ぎない。だが説明したとおり、実際、そんなのはただの幻想だ。
あらゆる場面でそれに応じた特定のプレイを必要とするというのは、対戦相手の行動に対して自動で反応するロボットになるということだ。事実、ギミックの詰め込み過ぎは、プレイを予想のできるものにする。相手がギミックを理解できてしまえば、サプライズ要素など消え去り、こちらが次にやろうとする行動を相手が知っているということになる(もっとも、安定しないデッキでちゃんと行動できればの話だが)。
おおざっぱにまとめればこういうことだ。相手に解答を探させるような、能動的なプレイヤーになろう。相手の行動に応じて解決策を探すような、受動的なプレイヤーになってはいけない。
ギミックと安定性を巡る永遠の葛藤については、次回の記事で触れようと思う。今は、誰もが知っている次の事実を指摘しておこう。
+ギミック=-安定性
同様に、
多くをやろうとすればするほど、できることは少なくなっていく。
■Jasonの優勝PLOXリスト
機能するデッキには目標がひとつしかないことは上で述べた。なぜJasonは2つ言っていたのだろうか?
目標は安定性だ。それは、常に自分の戦略を機能させてくれる。ミラーで強みを持たせるというのは、安定性に到達する上での心構えに過ぎない。強烈な対策ギミックを加えるというのは、それとは正反対のことだ。
あるマッチアップで強みを持たせるというのは、デッキに馴染むオプションを加えることで達成できる。それは、柔軟性のあるリストにすることを意味する。
強烈な対策カードは、ある特定の場面では有効だが、機械的なリアクションとなる。その一方で、柔軟性のあるカードならば、2つ以上の目的を持たせることができ、デッキのメイン戦略から外れることもない。それこそが本当の意味でのデッキに馴染むオプションといえる。それは、ただ自分が頭を使ったと感じるだけの幻想とは違うものだ。
では、デッキリストを見ていこう。
PLOX by Jason Klaczynski - 2008年世界大会優勝
4 ラルトス(DP3)
2 キルリア(DP3)
3 サーナイト(DP4)
1 サーナイトLv.X(DP4)
2 エルレイド(DP3)
2 ヤジロン(DP4)
2 ネンドール(DP4)
1 ヨマワル(DP1)
1 ヨノワール(DP1)
1 ペラップ(DP4)
1 ジラーチex(PCG8)
1 サンダース☆(promo)
彼のレポートと同じように、それぞれの部分を個別に見ていきたい。まずはポケモンからだ。
シンプルで、安定している。デッキの機能に忠実になろうというのがその考え方だ。相手より速く展開できれば、相手の対策カードも追いつけなくなる。
アタッカーのライン以外で目に付くのは、ヨノワールでの精神的なプレッシャー(相手デッキがアブソル(BW8)入りと知っている状況と比べてほしい)と、追加の「サイコロック」になるジラーチexだ。そして、サンダースが入っている……。
サンダースは柔軟性の最初の例だ。相手を一撃で倒すのに10点だけ足りなかったりすると、相手は追加の1ターンを得てしまう。サンダースは、サーチ可能なプラスパワーとなることで、そういった状況を避けることができる。そのような追加のダメージカウンターは、PLOXのダメージ計算では欠かせないものだ。
・W虹付きのサイコロックは、よく使われるたねポケを落とせないことがある(たとえばペラップ)。
・湖の結界が場にある状態で、PLOXはW虹付きだと相手のサーナイトに100ダメージ、エルレイドに120ダメージしか与えられない。
・サーナイトLv.Xはサイコロックを10残して耐える。
・ジラーチexのちょうねんりきはサーナイトに100ダメージしか飛ばない。
・エルレイドがエンペルトを落とすとき、サイド4枚ではなく3枚めくるだけで済むようになる。
・ホロンエネFFつきのハピナス(DP2)に対しても、サンダースなしだとエルレイドはサイドを4枚めくる破目になる。
・相手のジラーチexに対しても、サンダースなしだとエルレイドはサイド3枚の代わりに2枚めくりで済むようになる。〔※訳注:恐らく1枚の間違い?〕
これが柔軟性ということだ。それがお助けカードにしかならないようなマッチアップでも、少なくとも2つ以上の状況で働いてくれる。致命的な使い方のできるその他のマッチアップでなら、有効なギミックになりうる。
再びおおざっぱなまとめをしたい。死に札は作らないようにしよう。そしてほとんどの場合、対策カードは死に札なのだ。
4 ハマナのリサーチ
4 ニシキのネットワーク
2 ミズキの検索
2 ギンガ団の賭け
2 ダイゴのアドバイス
この記事の趣旨を鑑みれば、ここをあえて強調する必要はないだろう。安定した枚数が入っていて、ネンドールと、サーナイト(このデッキの核だ)を可能な限り速く立てることに注力されている。
4 ふしぎなアメ
2 暴風
2 ワープポイント
2 湖の結界
湖の結界については上で何度か触れたので、有用性は明らかだろう。
このカードの主な目的は、このデッキにとって重要なW虹やスクランブルを無効化してしまうクリスタルビーチを割ることだ。Jasonはスタジアムや封印の結晶を割るため暴風を2枚入れているだけでなく、様々な状況で便利なこのスタジアムも2枚入れている。同時にそれは、このデッキにとって脅威になるカードに対する、効果的なカウンターにもなっている。
繰り返しになるが、用途が多いということは、デッキの弱点を取り除くと同時に、死に札にならないということだ。より多くのオプション、さらなる安定性、そして、より高い柔軟性。
4 コールエネルギー
3 超エネルギー
1 サイクロンエネルギー
4 Wレインボーエネルギー
3 スクランブルエネルギー
このエネルギーの部分を最後に残したのは、特に興味深い箇所はないからだ。4枚のコールエネとW虹は高速展開の可能性を最大限に高めてくれるし、1枚おしゃれに積まれたサイクロンエネは、封印の結晶対策になると同時に、ダメージを稼がれてしまう相手の壁カードへの対策になっている。
このデッキを何度か(特にミラーを)回してみたあとでは、4枚目の超エネルギーがあっていいかもしれないと思った。だがそのために抜けそうなカードは、おそらくそのエネルギーよりも重要なカードだろう。
最後に、別のリストと見比べてみたい。
■比較例
PLOX by Gino Lombardi - 2008年世界大会3位, 2008年アメリカ選手権優勝
4 ラルトス(DP3-3,PCG6-1)
2 キルリア(DP3)
3 サーナイト(DP4)
1 サーナイトLv.X(DP4)
2 エルレイド(DP3)
2 ヤジロン(DP4)
2 ネンドール(DP4)
1 クレセリア(DP4)
1 クレセリアLv.X(DP4)
1 ベトベター(DP3)
1 ベトベトン(DP3)
1 パチリス(DP4)
1 ジラーチex(PCG8)
1 フィオネ(DP4)
3 ハマナのリサーチ
2 ニシキのネットワーク
2 ミズキの検索
2 ギンガ団の賭け
3 ダイゴのアドバイス
4 ふしぎなアメ
1 ワープポイント
1 湖の結界
1 夜のメンテナンス
1 ちからのかけら
2 フヨウのスタジアム
3 コールエネルギー
5 超エネルギー
4 Wレインボーエネルギー
3 スクランブルエネルギー
この年はGinoの黄金期だった。その年最大の大会で優勝し、そして世界大会でもトップ4になったのだから、偉業と言わず何と言おう。
このリストには、目立った欠点がいくつかある。
・初手スタートすると弱いカードが多い。
・貧弱なサポーターのライン
・封印の結晶への解答がない。
・コールエネルギーが3枚のみ。
ギミックが数多く詰め込まれているせいで、このデッキは、そう頻繁には完璧な立ち上がりができるわけじゃない。それに加えこのデッキには、ミラーマッチ以外では完全な死に札になる、対策カードが入っている。これだけ多くの1枚挿しがあると解答がサイド落ちする可能性があるし、クレセリアを手助けする手段がワープポイント1枚しかない。
サポーターラインを削り、ギミックを増やして、100%ポケパワーに依存したデッキにとっては、封印の結晶への対策がないのは致命的だ。クリスタルビーチを割るためにフヨウのスタジアムが2枚入っているが、ときたまいるキノガッサに好き放題やられるのを防げて、かつ非常に用途の多い湖の結界は、1枚しか入っていない。もうひとつ欠点を挙げればヨノワールが入っていないことだ。それだけで相手が息を吹き返せるだけの(文字通りの)余分なスペースを与えてしまう。そのスペースは、エンペルトが海辺でみんなでなみのりを(シャレじゃない)するのに欠かせないものだというのに。
それでもGinoは優秀なプレイヤーであり、このリストで相当に上の方まで進むことができた。そして、それは幸運のおかげだけではなかったのだ。
・ワープポイントが1枚だけとはいえ、フヨウのスタジアムはクレセリアを立てるのに大きな助けとなる。クレセリアは一度立ってしまえば、回復と同時に半永久的なプラスパワーになれる。エンペルトのデュアルスプラッシュに対しても強くなる。
・ベトベトンは強烈な対策カードだ。だが、よく機能した。W虹や起動済みのスクランブルエネのついた相手なら、何でも毒状態にできたのだ。このカードは特定の場面でのみ強いカードだが、それでも実際は大半のプレイヤーがPLOXを使っていたせいで、ミラーでの強烈な対策カードは、多大なアドバンテージになった。
・フィオネはW虹つきのサイコロックなら耐えることができ、その間にサーナイトやエルレイドを育てられる。パチリスでも同様のことが言えるが、思うにこのカードは、4枚目のコールエネの代わりになっていたのだ。
・ちからのかけらは、封印の結晶のようなどうぐを使ってくる多くの相手に対して、テレパス経由で探しに行くカードだ。だが、テレパスを止めてくる封印の結晶への対策がなければ、そこまで有効にはなりえない。またこのカードは、相手のサイコロックでサンダースが封じられた状況下で使うこともできる。
だが、過去に思いを巡らすことの意義とは何なのだろう? これらの話から、いったい何を得られるのだろうか。
異なったメタゲームや愛すべきゲームの歴史を学ぶことは楽しい。だがそれとは別に我々は、フォーマットに関係なく機能するものとは何かを学ぶことができる。
これらの記事の究極の目標は、プレイヤーが、どんなフォーマットにも、どんな状況にも適応できるよう手助けをすることだ。とあるプレイヤーがとあるデッキで結果を残せていたとしても、そのプレイヤーは、別のデッキでは結果を残せないかもしれないし、新弾が出ても自分のデッキをそれに適応させられないかもしれない。つまるところ、この記事がやりたいのは、プレイヤーの小さなミスを見つけ、スキルを完璧なものにするための手助けをすることだ。
少し先走りすぎたかもしれないが、ここで、学んできたことを使ってひとつ実践的なサンプルを見せたいと思う。
■トップメタデッキにおける柔軟性:現代編
自分の考えでは、完成形になって以来ずっと強力で、かつローテーションまで消えないであろうデッキのひとつは、カメックスだ。
このデッキは強いデッキだと誰もが知っているし、当たったときのために準備をする必要がある。そのため、大会でカメックスを使うのは悪くない賭けだと考えてもいい。プレイがあまり難しくなく、非常に強力だ。
目の前には、他のプレイヤーにとって脅威になるデッキがある。彼らがこのカメックスを脅威と感じる理由を、下記のガイドラインから裏付けてみよう。
安定させること。そしてその延長線上で、ミラーで強みを持たせること。また、ありがちな欠点に対して、柔軟な解決策を持たせること。
まずはポケモンから始めよう。
Standard Blastoise by Joao Lopes
4 ゼニガメ
3 カメックス
2 ケルディオEX
2 ブラックキュレムEX
1 ブラックキュレム
1 ジラーチEX
1 タマタマ
ポケモンキャッチャーが無くなったことで、ジラーチEXはカメックスにとって手堅い利点になった。ジラーチEXは、ハイパーボールや、ときにはレベルボールを、ビーチや、アメや、カメックスや、アララギや、スーエネ回収や、Nにも変えてくれる。このおかげで安定性が驚くほど増しているし、1ターン目のゼニガメ/ビーチや2ターン目のカメックス+アタッカーのような破壊的な展開を手助けしてくれる。
カードを少し引いたあとでならカメックスを見つけるのは容易だが、ゼニガメでスタートするのは簡単ではない。そのため、安定性を最大化するのにゼニガメ4は必須だ。余ったゼニガメは、あとでハイパーボールやスーエネ回収で捨てることができる。
カードを捨てることに関して言えば、このデッキのすべてのカードはあのおおざっぱなまとめ話に従っている。つまり、どんなマッチアップでも、無駄になるカードは入っていない。それを頭に入れておくと、上で触れたボール系や回収系は、捨てる余裕のないはずのカードを切ってしまう破目に陥る、ということになる。コストを軽減するためのタマタマは、1キルがほとんどない環境なので、安全に使うことができる。
アタッカーについては、それぞれを2枚ずつ入れれば十分に足りる。3枚目は必要にならないし、デッキがきちんと動けば1枚でもたいてい非常に良い仕事をしてくれる。考え方としては、ほとんどの対戦で非EXポケモン1枚とEXポケモンを2枚倒されるということになっている。アタッカーが4枚いれば、3枚目のEXがゲーム終盤で使えるようになるだろう。
さて、柔軟性のあるカードでミラーに強みを持たせよう。非EXのブラックキュレムだ。これはよく知られたギミックだが、そこまで使われてはいない。ドラゴンの殴り合いになればこのカードは1枚でサイド2枚と交換になり、相手のプランを崩壊させられる。この見え見えの使い道以外だと、バトル場に放置された相手のゼニガメやタマタマをこれで倒すというものがある。自分のデカブツをわざわざ危ないところに出さなくて済む、というわけだ。
ミラー以外だと、非EXポケモンがいれば重要なアタッカーを使わず生かしたままにしておける。一番良くある相手がヤミラミだ。このオプションは、考える以上に有効だ。また、このカードがあれば、ケルディオEXが倒されたあとでもガブリアスあたりの適当なドラゴンを狩ることができるし、レックエンブのような相性の悪いマッチアップも5分5分で戦うことができる。
4 アララギ博士
3 N
4 フウロ
2 アクロマ
自分はいつもサポーターの最低ラインは14枚にしているが、今回の場合は、ジラーチEXがボールをサポーターに変えてくれる。そのため、サポーターの枚数カウントはもっと多いものとして扱える。
ここでもうひとつ指摘したいのは、4枚目のNを入れていないことだ。Nは本当に強力なサポーターだが、このデッキは、Nを使い倒せるようなデッキではない。その代わり、アクロマ2枚が、中終盤では最強のサポーターになってくれる。ときにアクロマの入っていないデッキがあるのは、このカードが序盤では役立たずだからだ。だがこのデッキなら序盤はフウロとトロピカルビーチに依存するし、サポーターを切り替えるころには、アクロマはオーキド博士の新理論と同等かそれ以上の働きをしてくれる。それでもN3枚とアクロマ2枚にしているのは、このデッキが序盤の数ターンで展開する必要があること、そして、デッキのメインの目的に絞って構築する必要があるからだ。
フウロ4枚は疑いの余地ない選択だ。このデッキが一番必要とするカードであるし、このデッキの手札はいつも、完璧なものからはグッズ1枚ぶん足りない。そういうとき、フウロは最高の相方になってくれる。アララギに関して言えば……アララギはアララギだ。可能なら、10枚でも使いたいカードだ。
4 ハイパーボール
2 レベルボール
4 ふしぎなアメ
4 スーパーエネルギー回収
3 トロピカルビーチ
2 ツールスクラッパー
2 エネルギー転送
1 ポケモン回収サイクロン
ボール系が6枚というのは、Jasonのデッキでサーチ系のサポーターが6枚だったのと同様だ。ここでは、2ターン目のカメックスを保障してくれる。ハイパーボールを最大枚数入れておけば、1ターン目にゼニガメを引く方法は6枚もあるし、2ターン目にカメックスやアタッカーを引くカードも4枚確保できる。
ダストダスが常に脅威である以上は、ツールスクラッパー投入はマストだ(封印の結晶に対しての暴風と同じだ)。おまけとして、エンペルト(最近流行ってきている)のシルバーバングルを剥がすことができるし、他のデッキのかるいしを剥がして妨害することもできる。
2枚のエネルギー転送は、この氷のドラゴンのために雷エネルギーを引くのに必要であり、またケルディオのために水エネルギーを確保する手段でもある。困ったときにはフウロがエネにもなる。2枚しか入れていないのは、エネの総数を減らしてあっという間にエネ切れを起こすのを防ぐためだ。
ポケモン回収サイクロンは、自分の住んでいる地域でカメックスを使っているプレイヤーから拝借したアイディアだ。まんたんのくすりよりも強いカードだし、ジラーチEXを再利用したり、エネを捨てずに逃げることができたりと、多くの場面で使えるカードだ。構築が安定していればパソコン通信は必ずしも必要ではないし、このカードは、相手の前のターンの動きを無駄にできたり、それ以上のこともできる。
2 雷エネルギー
9 水エネルギー
エネルギー転送は、水と雷の両方を探せるという点以外にも、雷エネの実数を削って水エネの使える量を増やせるという点がある。
このデッキリストは、オプションを組み入れつつ安定性を目指すという原則に基づいて構築されたものだ。カメックスのような、動きが一直線なデッキでも、それは可能だ。
もちろん、環境や、そのプレイヤーのメタ読みの能力にも依存する。数枚変えただけで、特定のマッチアップ相性が改善することだってある。とはいえ、環境への適応については、日を改めて議論をするとしよう……。
■結論
複雑な戦術が展開できたときの美しい光景には、みなが魅了されがちだ。だが現実は、手の込んだことをやって失敗するよりも、シンプルなことを正しくやるのが一番なのだ。
当たり前の知恵は忘れられやすい。我々はみな、戦術を完遂して純粋な安定性で勝ちに行くよりも、あらゆるデッキに対して何らかの解答を用意しようとしてしまう。
ある状況で強いカードは、別の状況では邪魔なカードになる。柔軟性は、ギミックと安定性のあいだでバランスを保ってくれるものなのだ。
次の記事ではデッキ構築における別の要素について書いてみたい。大会だ。League Challengeから世界大会まで、その違いを見出すのは簡単だ。つまり、難易度が上がり、プレイヤーが増える。だが、とある構築が大会環境に合っていたとして、その翌年には、その大会環境に合う構築が全く変わってしまうとしたら?
次回は、環境に適応することについてだ。Pesadelo Prism (2012)とStraight Darkrai (2013)を取り上げてみたい。〔※訳注:前者は2012年の世界大会優勝のダークライM2。後者は恐らく2013年の世界大会優勝のダークライ。〕
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以上になります。お読みいただきありがとうございました。
文字数にして15000超えという非常に長い記事でした。それでも、最後までお読みいただいた方にとっては、必ずや得られるものがあっただろうと思います。
かく言う僕にとっても、実は2007~2008年ごろは某MtGにかまけていたので、なかなか新鮮な内容の多い記事でした。
ふたつのサーナイト/エルレイドの比較のあたりは白眉ですね。また、ゲームデザインを例に出して、なぜギミックは有効性が低いのかを語るくだりも、大変ためになるものだったと思います。
この著者は、次回はふたつのダークライデッキを取り上げてくれるようですね。次回にも期待大です。