【コラム】「メタゲーム」とポケモンカード
2013年3月20日 メタゲームとは何かが話題になってるそうなので、便乗が大好きな僕も例によって書くことにします。何度も繰り返されている話かもしれませんが、繰り返すこと自体は嫌いではありません。
例によって長すぎるので、読み飛ばし大歓迎です。
■「メタ」と「メタゲーム」
まず「メタ」の語について。ギリシャ語起源の接頭語「meta」が「上の」を意味しているのは、すでに書き尽くされているとおりですね。この用法でほぼ必ず例に出される"metaphysics"(形而上学)の意味の由来については、Wikipediaの「形而上学」の項に詳しい記述があります。
それはさておき、問題は「メタゲーム」です。
ただ実のところ、またしてもWikipedia、それも英語版、"Metagaming"というタイトルそのままの項目(ttp://en.wikipedia.org/wiki/Metagaming)に、かなり詳細な記述があります。
語源については記述がはっきりしないものの、ゲーム理論において(囚人のジレンマの解決方法として)用いられていた、というのは、起源のひとつとして見なすことができそうです。その項目を見るかぎり、ゲーム理論に限れば単独の論者まで遡れるようです。
(とはいえ「メタ」という語自体、20世紀後半のアカデミズムの流行語のひとつとなっていた印象があるため、直接の起源を問うのは難しいでしょう。それでも、こういう言い方はいい加減すぎて怒られそうですが、アカデミズムでメタ○○と言われるとき、このメタの意味は往々にして「○○に自覚的になること」です。この意味は、実は「メタゲーム」にも含まれています)
■カードゲームと「メタゲーム」
語の起源はこのくらいにして、カードゲームに話を戻します。英語版Wikipedia"Metagaming"の項目には、多岐にわたる"metagame"の意味が載っています。ですが、カードゲームに限って言えば、MtGことMagic: the Gatheringを例に、以下のように書かれています。
現在流布しているような意味あいは、ほぼこの中に含まれているでしょう。上の記述には、付け加えることはほぼありません。
しばしば「メタゲーム」という語の用法や意味が問題になります。けれども英語では、"metagame"は名詞としても動詞としても使われ、そのたび意味は微妙にズレてきます。個人的には、用法や語義はあまり気にしても仕方ないのでは、というのが内心です。
■MtGと「メタゲーム」
ポケカブログなので簡潔に済ませますが、MtGにおける「メタゲーム」という語の使用について、ちょっとだけ歴史を紐解いてみましょう。そもそもカードゲームで「メタゲーム」という語がいつ頃から一般的に使われ出したのか、正確な記録は存在しませんが、ある程度推測することはできます。
MtGでは定期的に、グランプリやプロツアーといった大規模大会が開かれ、その記録がカバレッジとしてウェブ上に残されています。もちろん、インターネットの発展とともにカバレッジも緻密で面白くなっていきますが、MtGのカバレッジ上に"metagame"という語が公式な形で登場したのは、2000年(のプロツアーシカゴのカバレッジttp://www.wizards.com/sideboard/event.asp?event=PTCHI00)からだろうと思われます。とすれば、それより前からプレイヤー間で使われ出し、そのあたりで一般化した、と考えるのが妥当でしょう。
メタゲームは情報戦である以上、その言葉もインターネットとの発展と共に広がるのは当然のことです。余談ですが、かの名コラム「ティンカーデッキへの探求」(ttp://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010607a,,ja)は2001年、文中で"metagame"という語は一度だけ使われています。
■ポケカと「メタゲーム」
では、ポケカはどうでしょう。おそらく「メタゲーム」という語は他のTCGからの流入でしょうが、ポケカでメタゲームの動向が初めて広く意識されたデッキは、No watersとスライではなかったかと思います(No watersとスライについては、それぞれttp://www5.pf-x.net/~flatzone/pokedex/index.php?No%20watersと、ttp://www5.pf-x.net/~flatzone/pokedex/index.php?%A5%B9%A5%E9%A5%A4を参照)。この2つの流行が2001年。しかし、上記のMtGのいきさつを鑑みれば、これが2001年という年だったのは必然だったのかもしれません。
それでも、低年齢層がユーザーの中心であるポケカでは、ネットでの情報の伝播は、他TCGに比べ遅れていたというのが実情です。とりわけ2000年代中盤ぐらいまでは、ネットユーザーと非ネットユーザーの間には歴然とした差がありました。現在でもなお「メタゲーム」という語についての話題が出るということ自体が、その遅れの影響のひとつなのかもしれません(けれどこれはプレイヤーの責任ではなく、ポケカというゲームの性質と、デッキや情報の公開をちゃんとしない公式側の責任でしょう)
その意味では、ブログが広く普及し、デッキやレポートの公開がある程度まで盛んになった現在は、歓迎すべき状態だろうと思います。
最後にもう一度だけ、語の定義の話題に戻りましょう。
実はみんな大好きsixprizes.comに、「メタゲーム」に関する記事があります(Erik Nance, "All You Need To Know About Metagaming," ttp://www.sixprizes.com/2013/01/31/all-you-need-to-know-about-metagaming/)。後半は会員用記事なので読めませんが、前半部分だけでも今回の話を補うには十分でしょう。これ以上長くなると嫌なので訳しませんでしたが、結構わかりやすい議論がなされている印象を受けました。
■おわりに
長々と書いてきましたが、おそらく多くの人にとって既知であろう情報を並べるのは恥ずかしくもあります。ただまあ、更新ネタが途切れていたので、こういうのも悪くないかもしれません。
ところで、上のWikipediaの記述の中では、プレイングへ与える影響の側面がちょっと過小評価されているかなという印象を受けました。こうしてメタゲームについて考えていくと、デッキなどの情報が多く公開されている現在にあっては、プレイヤー間の差を生んでいるのは、実は構築よりも、文章化しにくいプレイングの方なのでは、という感想も抱いてしまいます。
例によって長すぎるので、読み飛ばし大歓迎です。
■「メタ」と「メタゲーム」
まず「メタ」の語について。ギリシャ語起源の接頭語「meta」が「上の」を意味しているのは、すでに書き尽くされているとおりですね。この用法でほぼ必ず例に出される"metaphysics"(形而上学)の意味の由来については、Wikipediaの「形而上学」の項に詳しい記述があります。
それはさておき、問題は「メタゲーム」です。
ただ実のところ、またしてもWikipedia、それも英語版、"Metagaming"というタイトルそのままの項目(ttp://en.wikipedia.org/wiki/Metagaming)に、かなり詳細な記述があります。
語源については記述がはっきりしないものの、ゲーム理論において(囚人のジレンマの解決方法として)用いられていた、というのは、起源のひとつとして見なすことができそうです。その項目を見るかぎり、ゲーム理論に限れば単独の論者まで遡れるようです。
(とはいえ「メタ」という語自体、20世紀後半のアカデミズムの流行語のひとつとなっていた印象があるため、直接の起源を問うのは難しいでしょう。それでも、こういう言い方はいい加減すぎて怒られそうですが、アカデミズムでメタ○○と言われるとき、このメタの意味は往々にして「○○に自覚的になること」です。この意味は、実は「メタゲーム」にも含まれています)
■カードゲームと「メタゲーム」
語の起源はこのくらいにして、カードゲームに話を戻します。英語版Wikipedia"Metagaming"の項目には、多岐にわたる"metagame"の意味が載っています。ですが、カードゲームに限って言えば、MtGことMagic: the Gatheringを例に、以下のように書かれています。
In the popular trading card game Magic: The Gathering players compete with decks they have created in advance and the "metagame" consists of the deck types that are currently popular and expected to show up in large numbers in a tournament. The knowledge of metagame trends can give the players an edge against other participants, while playing (quickly recognizing what kind of deck opponents have to guess their likely cards and moves) and more importantly in the deck building process, by selecting and adapting designs to do well against the popular deck types at the expense of performance against rarer ones. It’s also possible to bluff opponents into expecting cards that aren’t there, or to surprise the competition with novel decks that nobody is prepared for. The secondary market of cards is heavily influenced by metagame trends: cards become more valuable when they are popular, often to the point of scarcity.
(著名なTCG、マジック・ザ・ギャザリングにおいては、プレイヤーは前もって組んでおいたデッキを用いて競技を行う。「メタゲーム」は、現行のトーナメントにおいて人気があり、多くの使用者がいると思われるデッキによって成り立つ。メタゲームの動向に関する知識は、プレイヤーが他の参加者より優位に立つことを可能にする。プレイ中、相手のデッキの種類を即座に判別して相手が使ってきそうなカードややってきそうな動きを推測したり、さらに重要なのは、デッキ作りの段階で、めったに当たらないデッキよりもよく使われるデッキに対してうまく戦える構築を選択し、採用することによってである。
そしてまた、使ってもいないカードを対戦相手に考えさせるブラフや、あるいは誰も対策していないような奇抜なデッキで大会を驚かすことも可能になる。セカンダリー・マーケット〔訳注:消費者同士の取引、ここではシングルの売り買いやトレード〕は、メタゲームの動向に多大な影響を受ける。カードは、多く使われるようになったとき、そして供給が不足しているようなときには、さらに価値が上がるのである)
現在流布しているような意味あいは、ほぼこの中に含まれているでしょう。上の記述には、付け加えることはほぼありません。
しばしば「メタゲーム」という語の用法や意味が問題になります。けれども英語では、"metagame"は名詞としても動詞としても使われ、そのたび意味は微妙にズレてきます。個人的には、用法や語義はあまり気にしても仕方ないのでは、というのが内心です。
■MtGと「メタゲーム」
ポケカブログなので簡潔に済ませますが、MtGにおける「メタゲーム」という語の使用について、ちょっとだけ歴史を紐解いてみましょう。そもそもカードゲームで「メタゲーム」という語がいつ頃から一般的に使われ出したのか、正確な記録は存在しませんが、ある程度推測することはできます。
MtGでは定期的に、グランプリやプロツアーといった大規模大会が開かれ、その記録がカバレッジとしてウェブ上に残されています。もちろん、インターネットの発展とともにカバレッジも緻密で面白くなっていきますが、MtGのカバレッジ上に"metagame"という語が公式な形で登場したのは、2000年(のプロツアーシカゴのカバレッジttp://www.wizards.com/sideboard/event.asp?event=PTCHI00)からだろうと思われます。とすれば、それより前からプレイヤー間で使われ出し、そのあたりで一般化した、と考えるのが妥当でしょう。
メタゲームは情報戦である以上、その言葉もインターネットとの発展と共に広がるのは当然のことです。余談ですが、かの名コラム「ティンカーデッキへの探求」(ttp://www.wizards.com/sideboard/article.asp?x=sb20010607a,,ja)は2001年、文中で"metagame"という語は一度だけ使われています。
■ポケカと「メタゲーム」
では、ポケカはどうでしょう。おそらく「メタゲーム」という語は他のTCGからの流入でしょうが、ポケカでメタゲームの動向が初めて広く意識されたデッキは、No watersとスライではなかったかと思います(No watersとスライについては、それぞれttp://www5.pf-x.net/~flatzone/pokedex/index.php?No%20watersと、ttp://www5.pf-x.net/~flatzone/pokedex/index.php?%A5%B9%A5%E9%A5%A4を参照)。この2つの流行が2001年。しかし、上記のMtGのいきさつを鑑みれば、これが2001年という年だったのは必然だったのかもしれません。
それでも、低年齢層がユーザーの中心であるポケカでは、ネットでの情報の伝播は、他TCGに比べ遅れていたというのが実情です。とりわけ2000年代中盤ぐらいまでは、ネットユーザーと非ネットユーザーの間には歴然とした差がありました。現在でもなお「メタゲーム」という語についての話題が出るということ自体が、その遅れの影響のひとつなのかもしれません(けれどこれはプレイヤーの責任ではなく、ポケカというゲームの性質と、デッキや情報の公開をちゃんとしない公式側の責任でしょう)
その意味では、ブログが広く普及し、デッキやレポートの公開がある程度まで盛んになった現在は、歓迎すべき状態だろうと思います。
最後にもう一度だけ、語の定義の話題に戻りましょう。
実はみんな大好きsixprizes.comに、「メタゲーム」に関する記事があります(Erik Nance, "All You Need To Know About Metagaming," ttp://www.sixprizes.com/2013/01/31/all-you-need-to-know-about-metagaming/)。後半は会員用記事なので読めませんが、前半部分だけでも今回の話を補うには十分でしょう。これ以上長くなると嫌なので訳しませんでしたが、結構わかりやすい議論がなされている印象を受けました。
■おわりに
長々と書いてきましたが、おそらく多くの人にとって既知であろう情報を並べるのは恥ずかしくもあります。ただまあ、更新ネタが途切れていたので、こういうのも悪くないかもしれません。
ところで、上のWikipediaの記述の中では、プレイングへ与える影響の側面がちょっと過小評価されているかなという印象を受けました。こうしてメタゲームについて考えていくと、デッキなどの情報が多く公開されている現在にあっては、プレイヤー間の差を生んでいるのは、実は構築よりも、文章化しにくいプレイングの方なのでは、という感想も抱いてしまいます。
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