久しぶりの更新は翻訳です。
今回はGamespotというゲーム情報サイトからなのですが、そこに、クリーチャーズのポケカ部門を取材した記事が掲載されました。
(僕もクリーチャーズのツイッターアカウントで知りました)
初めて知った情報も多く、本当に面白い記事です。
ポケカ始めたばかりの人でも、長くプレイしている人でも、間違いなく楽しめる内容だと思います。
また、記事原文には、ここで載せきれなかった写真も多く掲載されています。そちらもぜひご覧ください。
いつもどおり、訳語の至らなさや誤訳の責任は、すべて僕うきにんに属します。
読みやすさを考慮して、訳文の省略や改行の変更を行った箇所があります。
(今回も例によって無許可翻訳なので、何かあればすぐに削除します)
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Playtesting is a full-time job.
by Kallie Plagge
https://www.gamespot.com/articles/how-pokemon-cards-are-made/1100-6459450/
ポケモンというコンテンツを巨大なロボットに例えるなら、株式会社クリーチャーズは、いわば、過小評価されがちな片腕部分だ。1998年の「ポケモンスタジアム」から始まり、直近の「名探偵ピカチュウ」まで、クリーチャーズ社は長年にわたって、ポケモンのスピンオフゲームに携わってきた。それだけでなく、「大乱闘スマッシュブラザーズ」など、複数のゲームで、ポケモンの3Dモデル作成も行ってきた。
だが、その一方でクリーチャーズ社は、ポケモンカードゲームの極めて多くの部分で重要な役割を担ってきたのだ。ポケモンカードゲームは、20年以上ものあいだ、コンスタントに新しいシリーズとエキスパンションを送り出し続けている。
先日わたしたちは、東京のクリーチャーズ社のオフィスを訪れ、ポケモンカードの制作過程について学ぶ機会を得た。その会社訪問の中、ポケカのディレクターを務める長島敦氏と、そして、かの有名なレアのリザードンを含む500枚以上のカードイラストを手掛けてきた、フリーイラストレーターの有田満弘氏に話を聞くことができた。お二方には、カードがいかに構想され、そしてイラスト化されるのかについて伺った。
また、クリーチャーズ社の品質管理室リーダーを務める井上学氏には、テストチームがどのようにカードをテストしているのか、また、強さのバランス問題や、いわゆる壊れカードをどのように対処しているのか、話を聞くことができた。
新しいカードを作る上では、大きく3つのパートがある。カードの発案、イラストの依頼、そして現行ルール下でのテスト。新しいカードシリーズとエキスパンションを創り上げて世に送り出すまでには、ゲームデザイナーチームと、70名を越えるイラストレーターと、そしてフルタイムで働く19名のテスターが携わっている。
ステップ1:ポケモンをえらぶ
長島氏によれば、新セットを構想する上で最も大切な要素は、多様性だという。さまざまなスタイルの絵と、さまざまな特徴を持ったカード。プレイ面で強力なカードもあり、またコレクターへ訴えかけるカードも必要だ。とはいえ、新セットを作る上での最初のステップは、どのポケモンを用いるかを決めることだ。
「ビデオゲームの最新版をベースにした、カードの新シリーズのスタート間近になると、私たちは、ベースにしようとしているゲームに忠実であろうと細心の注意を払います。例えば、ゲームで重点的に扱われていたり、ストーリー上で重要な役割を担っていたりするポケモンは、制作中のカードセットでも中心的な立ち位置にします」と長島氏。「とはいえ、そのシリーズも中ごろになると、結果的には、プレイ環境に重きを置くようになるのですが……どのポケモンを用いるかも、そのあたりを基準に決めるようになるのです」
それらの選択は結果的に、ポケカのゲームバランスが丁度よく感じられるには何が必要なのか、そして、それらの要求にはどんなポケモンがふさわしいのか、そういったところに行きつくのだと、そう長島氏は語る。その一方でまた、制作チームは、ゲームやアニメであまり出番をもらえていないポケモンや、子供たちがカッコいいだろうと感じるポケモンや、果ては彼らチーム自身が好きなポケモンのことも考慮に入れる。
「僕の好きなポケモンはダークライなんです。もしかしたら、ダークライ強いカード多いんじゃない?と気づくかもしれませんね」長島氏は笑う。
各カードエキスパンションにも、背景になる物語とテーマがある。が、それらはプレイヤーにはほとんど語られることがない。
「XY8(青い衝撃・赤い閃光)では、2つのパラレルワールドがテーマでした。この2つの世界にはそれぞれミュウツーが存在しています。片方は発展した新しい世界。そしてもう片方は、もっと古い世界」と長島氏が解説してくれた。「そしてこの2つの世界が衝突したことで、世界は混沌に飲み込まれ、その結果として破壊されてしまいます」
長島氏によれば、制作チームにとっての最大の困難は、キャラクターやポケモンの持つ「心」や「魂」のようなものを大事にしつつ、かつ、そこに彼ら独自の工夫を加えることだ。カードゲームはビデオゲームと強く結びついているものの、ゲーム特有のメカニズムをカード側で機能するように置き換えるのは、そう単純なことではない。メガ進化などがその一例だろう。
長島氏は言う。「ポケカにはたねポケモンというものがあって、それを1進化、そして2進化へと進化させます。なのでほとんどの場合、最終進化系になるまでに2つの段階を踏みます。しかし、例えばもしも私たち制作チームが、そこにもう1段階加えてしまったとしたら、うまくデッキを機能させるのに、とても60枚では足りないでしょう。
そこで私たちは、すでに充分に強いカードにだけメガ進化を設ける、というアプローチを取りました。なので、もともと強いEXカードがあり、それがメガ進化する。私たち制作チームは、必要なステップを削ってみたのです」
究極的には、と長島氏は語る。TCG制作チームは、つねに新しさとバラエティの豊かさを保ちつつも、競技的なメタゲームにも注意を払っている。そしてこれは、シリーズの最初の段階からでさえ、極めて複雑な綱渡りのようなものなのだ、と。
ステップ2:イラストレーション
制作チームがカードの種類とそこにいるべき人物やポケモン(もしくは物)を決めたなら、そこからアートの出番が始まる。カードセットのバラエティの豊富さを維持するため、クリーチャーズ社は現状で、73名のイラストレーターおよびアーティストと仕事をしている。
その中でも、生み出した作品数の最も多いうちの一人は、有田満弘氏だろう。有田氏は最初期からポケカに携わり、これまで537枚のカードイラストを手掛けている。
有田氏は、クリーチャーズ社にある作業スペースを案内してくれた。そこには机が並べられ、フリーランスのアーティストが社外秘の仕事を行えるようになっている。それぞれの机はアーティストの自宅作業場のような雰囲気に作られ、デジタルデザインと彩色のため、その多くにタブレット機器が備え付けられている。
有田氏は、つい直近のラランテスのカードのイラスト制作過程を紹介してくれた。ラランテスの本来持っている「心」を捉えるべく、大胆な陰影と、明るい背景色に、かなりの神経を使ったという。
クリーチャーズ社はまず、担当のアーティストにカードの詳細情報を渡す。どのポケモンのカードなのか、どのような動きをしているのか、バックグラウンドとなる重要な設定は何か。とりわけ、俎上に上がっているポケモンが、まだリリースされていないゲームの登場ポケモンであるときがそうだ。これはトレーナーズのカードにも言え、さらには、非常に漠然とした指示がカードイラストに影響を及ぼすこともある。
例えば、「サカキの計画」のカードのときに有田氏が受けた依頼は、「堂々たる雰囲気」というものだった。そこで有田氏はそのカードを手掛けるとき、イラスト調というよりは、古典的な絵画のようなスタイルを用いた。レアカードを扱うときには、有田氏は、イラストのどの部分が光ったほうが良いかまで決めるようにしている。が、最終的なレア加工デザイン決定は、クリーチャーズ社スタッフとの共同作業となる。
「ポケモン赤・緑」の頃、有田氏や他のアーティストたちが参考にできるのは、ゲーム内画像と、一部の限られた公式イラストしかなかった。それでも有田氏は、初期シリーズを象徴するカードを何枚も手掛けている。例えばレアのリザードンや、少しふっくらとしたピカチュウのイラストがそうだ。
氏が現在までに手掛けた全てのカードを収めたバインダーの、最初の数ページは恐らく、90年代後半にポケモンに夢中だったすべての子供たちもまた持っていたものだろう。
有田氏は言う。「特に、このリザードンとピカチュウは、当時ポケカで遊んでいた多くの人にとって、思い出深いカードだろうと思います。もしかしたら、この2枚を超えるカードはもう描けないのではないかと思うこともあります」。それでも、最近イラストを描いた「ミュウツーGX」は、氏のお気に入りの1枚だ。イラストの評判も上々だという。
意外なことに、ひとつの進化ラインを同一のアーティストが手掛けるというのはあまりない。第一弾セットにおいて有田氏はフシギダネとフシギバナのイラストを担当したが、フシギソウは扱っていない(フシギソウは、ポケモン公式イラストを手掛ける杉森健氏によるものだ)。
とはいえ、進化ラインを通じて一貫したスタイルが求められることもある。例えば、愛らしいポカブと家族のイラスト。しかしそれでも大抵は、カードは複数のアーティストに担当分けされる。恐らくはイラストの多様性の確保と、そして時間の効率化のためだろう。
特に効率化は重要な要素だ。多くのカードは、イラストが出来上がる前からプレイテストにかけられるのだから。
ステップ3:フルタイム・プレイテスト
クリーチャーズ社には、プレイテスト専用に作られた特別な部屋がある。決して広くないオフィスの奥側にあるその部屋は、椅子とテーブルだけが並べられ、そして棚という棚には何年分ものポケモンカードが詰まっている。
1日7時間、週5日、19名のテストプレイヤーは、新カードがどのように機能するかを見極めるためポケカをひたすらプレイする(人数が奇数でも問題は起きていないようだ)。
テスターたちはほとんどの場合、リリース前のカードを扱うため、手元にあるもので何とかしなければならない。テスト中の新カードは、実際は、既存のカードにシールとして張ったものだ。それを通常のデッキに入れてプレイする。イラストが出来上がっていなければ、シールにはそのポケモンの(もしくはその対象物の)既存のイラストが描かれ、カード名、ワザ、効果、HP、そしてダメージなどが全て記載されている。
品質管理室リーダーの井上学氏によると、小さな修正が加わるのは「日常茶飯事」で、カードが最終形に至るまでに最大で2度や3度の大幅な改定が入ることも少なくない。
また、長島氏が以下のことを付け足してくれた。カードがリリースされると、競技プレイヤーたちは、こちらの全く思いもよらない使い方をすることがある。そのようなときはカードの禁止を行わざるを得ない。氏が特に名前を挙げたのは「フラダリの奥の手」だった。2015年、ゲームバランスを著しく損なっているという理由で、禁止カードに指定されたものだ。
どれだけプレイテストを行っても、競技プレイヤーたちはいつもテストチームを驚かせる。長島氏は最近の例として、イトウシンタロウ選手のメガタブンネデッキについて触れた。2016年にイトウ選手をマスター部門の世界チャンピオンに導いたこのカードのことは、長島氏も、これほどまでの強さを持っているとは思ってもみなかった、とのことだった。
とはいえ、長島氏は、自身も好んでカードデザインに深く関わりもする。2016年に環境を席巻し、アメリカ選手権を制覇した、かの悪名高き「よるのこうしん」が例だ。
「大会の決勝に顔を出すくらいにしようと思って作っていたのですが、まさかこんなにも結果を残すとは」
会社訪問の終わりに、オフィス内を出口に向かって歩いていると、ほとんどの従業員の机の上に、ポケモンのおもちゃやグッズが所狭しと並んでいるのが目に入った。
これだけは、きっと確かなことだろう。カードデザインからイラストを経てテストプレイに至るまで、クリーチャーズ社のポケカチームにとって一番大切なのは、ポケモンを愛する気持ちなのだと。
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以上になります。お読みいただきありがとうございました。
誤訳や疑問などあれば、遠慮なくご指摘いただければと思います。
僕にとっても、メガ進化のデザインの話あたりは非常に面白く、なるほどと思いながら読みました。
あと、背景世界、せっかくなら教えてよ!と思いますw
特に最近は、ガチガチの競技寄りだけでない自主イベントも多く開催されているので、背景世界のような要素もかなり需要あると思うんですよね。
今回はGamespotというゲーム情報サイトからなのですが、そこに、クリーチャーズのポケカ部門を取材した記事が掲載されました。
(僕もクリーチャーズのツイッターアカウントで知りました)
初めて知った情報も多く、本当に面白い記事です。
ポケカ始めたばかりの人でも、長くプレイしている人でも、間違いなく楽しめる内容だと思います。
また、記事原文には、ここで載せきれなかった写真も多く掲載されています。そちらもぜひご覧ください。
いつもどおり、訳語の至らなさや誤訳の責任は、すべて僕うきにんに属します。
読みやすさを考慮して、訳文の省略や改行の変更を行った箇所があります。
(今回も例によって無許可翻訳なので、何かあればすぐに削除します)
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Playtesting is a full-time job.
by Kallie Plagge
https://www.gamespot.com/articles/how-pokemon-cards-are-made/1100-6459450/
ポケモンというコンテンツを巨大なロボットに例えるなら、株式会社クリーチャーズは、いわば、過小評価されがちな片腕部分だ。1998年の「ポケモンスタジアム」から始まり、直近の「名探偵ピカチュウ」まで、クリーチャーズ社は長年にわたって、ポケモンのスピンオフゲームに携わってきた。それだけでなく、「大乱闘スマッシュブラザーズ」など、複数のゲームで、ポケモンの3Dモデル作成も行ってきた。
だが、その一方でクリーチャーズ社は、ポケモンカードゲームの極めて多くの部分で重要な役割を担ってきたのだ。ポケモンカードゲームは、20年以上ものあいだ、コンスタントに新しいシリーズとエキスパンションを送り出し続けている。
先日わたしたちは、東京のクリーチャーズ社のオフィスを訪れ、ポケモンカードの制作過程について学ぶ機会を得た。その会社訪問の中、ポケカのディレクターを務める長島敦氏と、そして、かの有名なレアのリザードンを含む500枚以上のカードイラストを手掛けてきた、フリーイラストレーターの有田満弘氏に話を聞くことができた。お二方には、カードがいかに構想され、そしてイラスト化されるのかについて伺った。
また、クリーチャーズ社の品質管理室リーダーを務める井上学氏には、テストチームがどのようにカードをテストしているのか、また、強さのバランス問題や、いわゆる壊れカードをどのように対処しているのか、話を聞くことができた。
新しいカードを作る上では、大きく3つのパートがある。カードの発案、イラストの依頼、そして現行ルール下でのテスト。新しいカードシリーズとエキスパンションを創り上げて世に送り出すまでには、ゲームデザイナーチームと、70名を越えるイラストレーターと、そしてフルタイムで働く19名のテスターが携わっている。
ステップ1:ポケモンをえらぶ
長島氏によれば、新セットを構想する上で最も大切な要素は、多様性だという。さまざまなスタイルの絵と、さまざまな特徴を持ったカード。プレイ面で強力なカードもあり、またコレクターへ訴えかけるカードも必要だ。とはいえ、新セットを作る上での最初のステップは、どのポケモンを用いるかを決めることだ。
「ビデオゲームの最新版をベースにした、カードの新シリーズのスタート間近になると、私たちは、ベースにしようとしているゲームに忠実であろうと細心の注意を払います。例えば、ゲームで重点的に扱われていたり、ストーリー上で重要な役割を担っていたりするポケモンは、制作中のカードセットでも中心的な立ち位置にします」と長島氏。「とはいえ、そのシリーズも中ごろになると、結果的には、プレイ環境に重きを置くようになるのですが……どのポケモンを用いるかも、そのあたりを基準に決めるようになるのです」
それらの選択は結果的に、ポケカのゲームバランスが丁度よく感じられるには何が必要なのか、そして、それらの要求にはどんなポケモンがふさわしいのか、そういったところに行きつくのだと、そう長島氏は語る。その一方でまた、制作チームは、ゲームやアニメであまり出番をもらえていないポケモンや、子供たちがカッコいいだろうと感じるポケモンや、果ては彼らチーム自身が好きなポケモンのことも考慮に入れる。
「僕の好きなポケモンはダークライなんです。もしかしたら、ダークライ強いカード多いんじゃない?と気づくかもしれませんね」長島氏は笑う。
各カードエキスパンションにも、背景になる物語とテーマがある。が、それらはプレイヤーにはほとんど語られることがない。
「XY8(青い衝撃・赤い閃光)では、2つのパラレルワールドがテーマでした。この2つの世界にはそれぞれミュウツーが存在しています。片方は発展した新しい世界。そしてもう片方は、もっと古い世界」と長島氏が解説してくれた。「そしてこの2つの世界が衝突したことで、世界は混沌に飲み込まれ、その結果として破壊されてしまいます」
長島氏によれば、制作チームにとっての最大の困難は、キャラクターやポケモンの持つ「心」や「魂」のようなものを大事にしつつ、かつ、そこに彼ら独自の工夫を加えることだ。カードゲームはビデオゲームと強く結びついているものの、ゲーム特有のメカニズムをカード側で機能するように置き換えるのは、そう単純なことではない。メガ進化などがその一例だろう。
長島氏は言う。「ポケカにはたねポケモンというものがあって、それを1進化、そして2進化へと進化させます。なのでほとんどの場合、最終進化系になるまでに2つの段階を踏みます。しかし、例えばもしも私たち制作チームが、そこにもう1段階加えてしまったとしたら、うまくデッキを機能させるのに、とても60枚では足りないでしょう。
そこで私たちは、すでに充分に強いカードにだけメガ進化を設ける、というアプローチを取りました。なので、もともと強いEXカードがあり、それがメガ進化する。私たち制作チームは、必要なステップを削ってみたのです」
究極的には、と長島氏は語る。TCG制作チームは、つねに新しさとバラエティの豊かさを保ちつつも、競技的なメタゲームにも注意を払っている。そしてこれは、シリーズの最初の段階からでさえ、極めて複雑な綱渡りのようなものなのだ、と。
ステップ2:イラストレーション
制作チームがカードの種類とそこにいるべき人物やポケモン(もしくは物)を決めたなら、そこからアートの出番が始まる。カードセットのバラエティの豊富さを維持するため、クリーチャーズ社は現状で、73名のイラストレーターおよびアーティストと仕事をしている。
その中でも、生み出した作品数の最も多いうちの一人は、有田満弘氏だろう。有田氏は最初期からポケカに携わり、これまで537枚のカードイラストを手掛けている。
有田氏は、クリーチャーズ社にある作業スペースを案内してくれた。そこには机が並べられ、フリーランスのアーティストが社外秘の仕事を行えるようになっている。それぞれの机はアーティストの自宅作業場のような雰囲気に作られ、デジタルデザインと彩色のため、その多くにタブレット機器が備え付けられている。
有田氏は、つい直近のラランテスのカードのイラスト制作過程を紹介してくれた。ラランテスの本来持っている「心」を捉えるべく、大胆な陰影と、明るい背景色に、かなりの神経を使ったという。
クリーチャーズ社はまず、担当のアーティストにカードの詳細情報を渡す。どのポケモンのカードなのか、どのような動きをしているのか、バックグラウンドとなる重要な設定は何か。とりわけ、俎上に上がっているポケモンが、まだリリースされていないゲームの登場ポケモンであるときがそうだ。これはトレーナーズのカードにも言え、さらには、非常に漠然とした指示がカードイラストに影響を及ぼすこともある。
例えば、「サカキの計画」のカードのときに有田氏が受けた依頼は、「堂々たる雰囲気」というものだった。そこで有田氏はそのカードを手掛けるとき、イラスト調というよりは、古典的な絵画のようなスタイルを用いた。レアカードを扱うときには、有田氏は、イラストのどの部分が光ったほうが良いかまで決めるようにしている。が、最終的なレア加工デザイン決定は、クリーチャーズ社スタッフとの共同作業となる。
「ポケモン赤・緑」の頃、有田氏や他のアーティストたちが参考にできるのは、ゲーム内画像と、一部の限られた公式イラストしかなかった。それでも有田氏は、初期シリーズを象徴するカードを何枚も手掛けている。例えばレアのリザードンや、少しふっくらとしたピカチュウのイラストがそうだ。
氏が現在までに手掛けた全てのカードを収めたバインダーの、最初の数ページは恐らく、90年代後半にポケモンに夢中だったすべての子供たちもまた持っていたものだろう。
有田氏は言う。「特に、このリザードンとピカチュウは、当時ポケカで遊んでいた多くの人にとって、思い出深いカードだろうと思います。もしかしたら、この2枚を超えるカードはもう描けないのではないかと思うこともあります」。それでも、最近イラストを描いた「ミュウツーGX」は、氏のお気に入りの1枚だ。イラストの評判も上々だという。
意外なことに、ひとつの進化ラインを同一のアーティストが手掛けるというのはあまりない。第一弾セットにおいて有田氏はフシギダネとフシギバナのイラストを担当したが、フシギソウは扱っていない(フシギソウは、ポケモン公式イラストを手掛ける杉森健氏によるものだ)。
とはいえ、進化ラインを通じて一貫したスタイルが求められることもある。例えば、愛らしいポカブと家族のイラスト。しかしそれでも大抵は、カードは複数のアーティストに担当分けされる。恐らくはイラストの多様性の確保と、そして時間の効率化のためだろう。
特に効率化は重要な要素だ。多くのカードは、イラストが出来上がる前からプレイテストにかけられるのだから。
ステップ3:フルタイム・プレイテスト
クリーチャーズ社には、プレイテスト専用に作られた特別な部屋がある。決して広くないオフィスの奥側にあるその部屋は、椅子とテーブルだけが並べられ、そして棚という棚には何年分ものポケモンカードが詰まっている。
1日7時間、週5日、19名のテストプレイヤーは、新カードがどのように機能するかを見極めるためポケカをひたすらプレイする(人数が奇数でも問題は起きていないようだ)。
テスターたちはほとんどの場合、リリース前のカードを扱うため、手元にあるもので何とかしなければならない。テスト中の新カードは、実際は、既存のカードにシールとして張ったものだ。それを通常のデッキに入れてプレイする。イラストが出来上がっていなければ、シールにはそのポケモンの(もしくはその対象物の)既存のイラストが描かれ、カード名、ワザ、効果、HP、そしてダメージなどが全て記載されている。
品質管理室リーダーの井上学氏によると、小さな修正が加わるのは「日常茶飯事」で、カードが最終形に至るまでに最大で2度や3度の大幅な改定が入ることも少なくない。
また、長島氏が以下のことを付け足してくれた。カードがリリースされると、競技プレイヤーたちは、こちらの全く思いもよらない使い方をすることがある。そのようなときはカードの禁止を行わざるを得ない。氏が特に名前を挙げたのは「フラダリの奥の手」だった。2015年、ゲームバランスを著しく損なっているという理由で、禁止カードに指定されたものだ。
どれだけプレイテストを行っても、競技プレイヤーたちはいつもテストチームを驚かせる。長島氏は最近の例として、イトウシンタロウ選手のメガタブンネデッキについて触れた。2016年にイトウ選手をマスター部門の世界チャンピオンに導いたこのカードのことは、長島氏も、これほどまでの強さを持っているとは思ってもみなかった、とのことだった。
とはいえ、長島氏は、自身も好んでカードデザインに深く関わりもする。2016年に環境を席巻し、アメリカ選手権を制覇した、かの悪名高き「よるのこうしん」が例だ。
「大会の決勝に顔を出すくらいにしようと思って作っていたのですが、まさかこんなにも結果を残すとは」
会社訪問の終わりに、オフィス内を出口に向かって歩いていると、ほとんどの従業員の机の上に、ポケモンのおもちゃやグッズが所狭しと並んでいるのが目に入った。
これだけは、きっと確かなことだろう。カードデザインからイラストを経てテストプレイに至るまで、クリーチャーズ社のポケカチームにとって一番大切なのは、ポケモンを愛する気持ちなのだと。
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以上になります。お読みいただきありがとうございました。
誤訳や疑問などあれば、遠慮なくご指摘いただければと思います。
僕にとっても、メガ進化のデザインの話あたりは非常に面白く、なるほどと思いながら読みました。
あと、背景世界、せっかくなら教えてよ!と思いますw
特に最近は、ガチガチの競技寄りだけでない自主イベントも多く開催されているので、背景世界のような要素もかなり需要あると思うんですよね。
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