【翻訳】距離ある視点――ポケカにおけるジャッジについて
2017年11月6日 ポケモンカードゲーム コメント (4)
前回更新から2ヶ月近く間があいてしまいましたが、今回の翻訳記事もSixPrizesから。
今回は対戦レポートや考察ではなく、ジャッジに関する記事です。
昨今はオーガナイザーやエキスパート資格の制定のせいもあってか、
国内でもジャッジの活動やルーリングが注目される機会が増えてきました。
今回の記事は、アメリカの大会で現役のジャッジとして活動している人からの寄稿になっています。
SixPrizesはじめ海外サイトでも、こういった記事は珍しいと思います。逆に言えば、ジャッジの方々の活動や考えが、こうしてプレイヤーの目に届く機会はあまりないかもしれません。
その意味でも今回の記事は興味深いですが、それ以上に、発見や、はっとすることも多い内容です。
ジャッジとして活動なさっている方はもちろん、現役のプレイヤーの方にも、ぜひ読んでいただけたらと思います。
いつもどおり、訳語の至らなさや誤訳の責任は、すべて僕うきにんに属します。
読みやすさを考慮して、訳文の省略や改行の変更を行った箇所があります。
(今回も例によって無許可翻訳なので、何かあればすぐに削除します)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
The Eyes from Above --An Op-Ed on the Experiences of a Judge in the Pokemon TCG Circuit
by Corey Scott
October 6th, 2017
ttps://sixprizes.com/2017/10/06/the-eyes-from-above/
こんにちは。Corey Scottと言います。今回、初めての記事をこうしてお届けできることを、非常に嬉しく思っています。ご存じないかたが多いとは思いますが、私は、われらが愛すべきポケモンカードの、ステージ2ジャッジをしています。先週末のHartford City Regionalsから、ジャッジ一筋のシーズン3年目を迎えました。
私のジャッジ暦ですが、2017年の世界大会と2017年北米選手権にジャッジとして参加し、Wisconsin Regionalsのシニアと、Origins Special Eventでヘッドジャッジを務めました。また、他にも2017年だけで、複数のイベントでフロアジャッジをしていますし、11月にはロンドンのヨーロッパ選手権にジャッジとして参加する予定です。加えてHartfordでは、マスターのセカンドヘッドジャッジを務めるという栄誉も授かりました。私のことはこれくらいにして、本題に入りましょう。
〔訳注:セカンドヘッドジャッジは、記事後半でも出てきますが、ヘッドジャッジの下、フロアジャッジの上という立ち位置〕
【原注】編集より:この記事に対して行われた編集作業は、読みやすさの向上のためだけであり、内容については一切手を加えていません。以下で行われている太字、強調、大文字化ならびにその他の文装飾や語句のわずかな変更は、編集作業の一環です。
■目的
今週の頭に、Doug Morisoliが、スリーブ関連で起こった出来事についてHeyFonteに投稿していました。この出来事のせいでトップ8が15分ほど遅れてしまっていたのです。この投稿の中で彼が挙げていた点について、私は数日間考え続けることになりました。
〔訳注:HeyFonteはFacebook上のグループコミュニティ〕
プレイヤーによるジャッジ批判はよくあることですし、時にはそれが正当なこともあります。ただし往々にして、いわゆる「舞台裏」、つまりジャッジが労を惜しまずにあらゆる視点を考慮し、プレイヤーの意見を擁護している、ということには、なかなか目が行かないものです。
確かに、何らかの問題が起こったとき、プレイヤーのコミュニティ側は真っ先にジャッジを批判しようとします。確かに私たちジャッジは、全員のそばについていることはできません。しかし私たちは、すべての参加者にとってゲームが確実に正しくプレイされるよう対処できる唯一の存在なのです。私たちの目標は、大会が、楽しく、正しく、段取りよく行われることなのです。
この記事を読むことで、プレイヤーにとって楽しいイベントの週末を、ジャッジが普段どのように過ごしているか、少しでも多く理解していただけたらと思います。
■ジャッジの週末
上述の通り、私は先週末、Hartford Regionalsのジャッジの一人でした。週末のサンプルとして、この大会を例に取りたいと思います。
〔訳注:Regionalsは、土曜がDay1、日曜がDay2(決勝トーナメント含む)という構成〕
私の週末は金曜の午前6時に始まります。この旅の同伴者は3人。途中の休憩も挟み、9時間ちょっとかかってHartfordへ到着です。ホテルにチェックインして荷物を下ろすと、大会会場へと向かいます。会場へ着くとすぐに登録へ。他の大会に行ったときに出会ったスタッフたちと挨拶を交わし、そして、必要なことは何でも手伝いをします。スタッフたちは、テーブル番号札を取り出したり、テーブルを拭いたり、賞品を整理したりしています。
私は喜んでテーブルクロスを敷いていきました。それが終わった後、イベント主催者に会うことができました――この週末、その下で働くことになる人です。それから、スタッフたちの会食へと向かいました。会食後には、夜8時から10時まで、大会で起こりうる様々なことについてスタッフたちで打合せ。そして部屋へと帰りました。
シャワーを浴び、ベッドにもぐり込み、今回ルームメイトになったジャッジと簡単なおしゃべりをしていると、時間は深夜12時30分。そこでようやく、私は眠りにつきました。
〔訳注:イベント主催者は、記事原文ではTO(Tournament Organizer)という表記〕
土曜日が来て、ルームメイトのアラームの音で5時に起こされました。ルームメイトはそのままシャワーへ行き、私は5時45分ごろにベッドから抜け出すと、よろめくように部屋の中を動きながらその日の準備をします。準備が済むと、6時半のミーティングのため会場へと向かいます。スタッフたちはコーヒー片手に会場入りし、動き方の指示を待ちます。
ミーティングは、イベント全体のヘッドジャッジ、各ディビジョンのヘッドジャッジ、そしてイベント主催者も交えて行われます。それが済むとスタッフは、選手受付のプロセスにそれぞれ配置されます。並び列のコントロールがあり、スマートフォンを用いた受付があり、そしてデッキチェックが続きます(リストに記入されたデッキが60枚あるかを数え、エキスパンションとコレクションナンバーが書かれているかを確認し、それらがスタンダードで使えるカードかを確かめます)。
受付が終わると、一斉に大会が始まります。ここにいる全員にとって、長丁場の始まりです。プレイヤーは1日に9ラウンドをこなします。が、それはジャッジにとっても同じなのです。
ほとんどの時間、ジャッジは立ちっぱなしです――ラウンドの合間を除けば、ですが、ようやく座れるかという時間は、ラウンド中に起こった問題についてのジャッジミーティングの時間、兼、足を休めている時間、ということになります。対戦時間中は、ジャッジは対戦テーブルを巡回し、問題が起きていないかを確かめ、ルーリングや質問に備えます。そして必要とあれば、ペナルティの裁定を行います。
運よく、この大会では昼食休憩の時間が設けられたので、ジャッジもプレイヤーたちと同じ時間に外で昼食を取ることができました。そして予選の9ラウンドが終わると、スタンディングが出揃い、プレイヤーたちは賞品を受け取って会場を出ます。
しかしそれらの間も、ジャッジは会場に残っています。会場にまだ残っているプレイヤーがいないか、賞品をもらい忘れているプレイヤーはいないか、そして、翌日の入場時間をプレイヤーたちがきちんと認識しているかを確かめるためです。私の場合、その日ホテルに戻ったのは夜の10時半ごろでした。夕食に行くことができたのはそれからです。
日曜日の起床時間は朝の6時。シャワーを浴びて準備をします。ジャッジの集合時間は7時半。会場に集まると、ジャッジはそれぞれの配置につきます。昨日の土曜日の段階では、マスターには20人を超えるジャッジが配置されていました。が、日曜日は、7人を残して他のジャッジはすべて、サイドイベントに配置されました。
それぞれ持ち場につくと、土曜に起こったできごとと、日曜はどのように対処していくかについてミーティングを行います。前日も長い一日を過ごしてきたジャッジたちは、ミーティングのあと、軽く準備体操をして2日目に備えました。ありがたくも私は、マスターのTop32の担当になりました。つまりは少なくとも、あと予選5ラウンドのあいだは、しっかり立っていなければならないわけです。
最終の予選スタンディングが掲示され、誰がトップ8に残って戦い続けているのか見られるようになりました。そして私は決勝トーナメントで、トップ8、準決勝、そして決勝の中継卓をジャッジしたのです。決勝戦が終わって新しいチャンピオンを祝福すると、1日の終わり、諸々を片付けるときです。私がホテルに帰ったのは夜の8時でした。
この週末の最後の最後は、月曜日、オハイオの自宅まで9時間のドライブです。そして家に着き、荷物を下ろした私は……店舗大会へポケモンカードをやりに行ったのでした。
振り返ってみれば、金曜日に9時間かけて大会へ行き、準備とミーティングを5時間行い、土曜日に16時間、日曜日には12時間半イベント会場にいて、そして月曜に9時間かけて車で家に帰りました。トータルでは28時間ものあいだ会場にいたわけです。しかしこれは、2~3時間の差こそあれ、大会でジャッジを務める場合の、非常によくある例なのです。
■中継卓でジャッジをするということ
ジャッジの中には、中継卓でジャッジを行うのを非常に嫌う人もいます。その一方で、中継卓でジャッジできるなんて名誉なことだと考えるジャッジもいます。対戦中、あなたの顔はカメラに登場し、中継卓でジャッジするにふさわしい人物として映ります。そして、足を休めることもできます。
しかしながら、中継卓でのジャッジは、フロアジャッジよりもずっと厄介だと言うジャッジもいます。中継卓でのジャッジは、いわば火中の栗のようなものです。もしプレイヤーがミスを犯したときジャッジがそれを見落としでもしたら、プレイヤーはそのミスのせいで、コミュニティ内で笑われ恥ずかしい思いをするでしょう。
私個人は、中継卓や対戦卓に張り付きでジャッジをするのは、フロアを歩き回ってジャッジをするのとは別のスキルだと思っています。プレイヤーが前のターンとこのターンに何をし、そして彼らのプレイがゲームをどのように進行させたかを覚えておくのは、フロアジャッジよりもつらい仕事です。
私を含め、ジャッジの多くは、プレイヤーのターン中に何が行われたかをメモしておくためのテーブルジャッジシートを作るようにしています。たとえば、エネルギーを貼ったか、攻撃をしたか、逃げるをしたか、サポートを使ったかどうか、などです。
これらの項目はすべて、行われたかどうかを知っておくのが重要なことだからです。
対戦中継のときは、私は、自分のシートの中に、サポートはS、エネルギーはE、ワザはA、というふうに項目を作っています。
サポートの行には、そのターンに何のサポートを使ったか、そしてEの列には何のエネルギーを貼ったかを書き込みます――たとえば、もしピーピーマックスでエネルギーをつけた場合も、私はメモするようにしています――そして、Aのところには、何のワザを使ったかを書いておきます。また、ワザでエネをつけたならそれもメモしますし、相手ポケモンを倒したなら何枚のサイドを取ったかも書いておきます。
〔訳注:ワザがAなのは、"attack"の頭文字〕
Hartfordでは、それぞれひとつひとつの対戦が、私にとっては違ったものでした。トップ8はSam Chen対Ryan Sabelhausでしたが、私にとっては、中継卓ジャッジをするにはもっとも気楽な対戦でした。この二人のプレイヤーはお互いをよく知っている友人同士で、対戦中もひっきりなしにおしゃべりしていました。終始明るく、ジャッジもやりやすい対戦でした。
〔訳注:Sam ChenもRyan Sabelhausも、どちらも名の知られた強豪プレイヤー〕
準決勝で、私は難しい場面に突き当たりました。対戦プレイヤーはどちらも物静かで、会話もほとんどありません。この対戦で私は、対戦卓に張り付くような立ち位置ではなかったため、彼らの行動をメモしていませんでした。Nがプレイされ、お互いがデッキをシャッフルをしている間などは、完全に集中力が切れていました。それでも私は、対戦中はずっと、冷静さを保ち、注意して見ている必要がありました。この対戦では、片方のプレイヤーが、実際には倒していないのに相手ポケモンを倒したと勘違いする、というミスプレイをうまく見つけることができました。
決勝のときは、いわば、もう一度自分のほうに風が吹いてきました。体力が戻り、準備は万端でした。私はテーブルに付くほうを選んだので、プレイヤーたちの行動を書き記すことができました。私はそれこそテーブルジャッジとしての私の強みだと感じました。このマッチでは、前のターンにかげぬいを使われていたにも関わらずスチームアップを使おうとしていたプレイヤーを止めることができました。総じてこの決勝トーナメントは、うまくいったと思います。
■ルーリング
このセクションは、それ自体でひとつの記事にできると思います。というのもルーリングには多くの視点があり、それぞれを話題にできるからです。しかしここでは、多少ほかのことには触れつつも、ルーリングそれ自体、つまり、指揮系統、そしてプレイヤーとの関わりについてのみ語りたいと思います。
ルーリングは、ポケカにおいては不可避的に発生するものです。プレイヤーは、ルールでは許されていない行動を取ることがあります。つまり、余分なカードを引いたり、使えないときに特性を使ったり、サイドを引きすぎたり、もしくは対戦開始時にサイドを置くのを忘れたり、です。これらにはさまざまなペナルティが伴います。
やみくもにペナルティを出すのはジャッジの仕事ではありません。大会の公平さを可能なかぎり保つことこそがジャッジの仕事です。大会ではペナルティガイドラインが一番のお供です。どのような違反がどのようなペナルティに該当するのか、端的な例を示してくれるからです。
その点に関して言えば、ペナルティに該当したプレイヤーにそのペナルティを与え、管理するのが私の仕事になります。
ペナルティの裏側には指揮系統があります。イベントにおいて、ジャッジは階層分けされています。対戦中、通路を歩き、プレイヤーの手がテーブルより上に上がっているかをチェックしたり、対戦の状況を見たりしているのがフロアジャッジ。多くの場合、プレイヤー間で何かが起こったときに最初に出てくるのがフロアジャッジです。そして多くの場合、フロアジャッジは、セカンドジャッジやヘッドジャッジとの相談までは行かずに、警告を与えるに留まります。
もしもその状況が、サイドペナルティや、より上位のペナルティに該当しそうならば、フロアジャッジは「セカンド」ジャッジやヘッドジャッジを捕まえ、判断を仰ぎます。
セカンドジャッジたちは、ヘッドジャッジに掛かる負担を軽減するために配置されています。セカンドジャッジは、サイドペナルティやゲームロスを承認することができ、そうすることで、20人以上いるジャッジたちが一人のヘッドジャッジに同時にばらばらの質問をぶつけるのを防ぐことができるのです。そしてヘッドジャッジは、各ディビジョンにおける最終決定者です。ヘッドジャッジの言葉が全てなのです。
フロアジャッジはペナルティに対処する際、ペナルティを受けようとしているプレイヤーが、ヘッドジャッジに対してアピールしたいかどうかを確認しなければなりません。したいと答えたならば、ヘッドジャッジが状況を調べるために呼ばれ、フロアジャッジのルーリングが正しいかどうかが判断されます。
ただし経験上、ヘッドジャッジはたいてい、その状況で何が起こっているかは知っています。というのもフロアジャッジは、プレイヤーが望まないようなペナルティを出す際には承認を得なければならないからです――警告に対して不平を言うプレイヤーはほとんどいませんが。それでもヘッドジャッジは出向き、プレイヤーと話し、裁定を変えてしまうような見落としをフロアジャッジがしていないかを確認するのです。
プレイヤーとの関わり合いは、常に、ジャッジの視点とはまったく別のものです。大会に行けばジャッジの多くは友人と出会いますし、嫌いなプレイヤーもいます。ただ、ほとんどのプレイヤーは、今まで会ったことのない、まったくの他人です。しかしながら、すべてのプレイヤーを、偏見なく公平に扱うのがジャッジの仕事です。
ただ、これができないジャッジがいるのもわかっています。ラウンドの合間のジャッジミーティングに、ふらりとプレイヤーが現れたことがありました。すると、とあるジャッジが言うのです。「ああ、この人は僕の担当エリアにいたんだ。何てことないよ」。ですが、全体の枠組みというものがあるのです――我々はあなたのエリアなんて知ったことではない。私たちは、大きな額のお金が動く大会にいるのです。
それだけでなく、ジャッジは、過去に良くない対処の仕方をしたプレイヤーに対しても、偏見を示してはいけません。たとえば、ソーシャルメディア上で揉めたことのあるプレイヤーに対しても、ルーリングの上では何ら違いがあってはならないのです。Hartfordでは、大会中ジャッジは、友人とハグしたりハイタッチしてはいけないと強く言われていました。なぜでしょうか? それはもしもプレイヤーがそれを見ていたら、友人の対戦に裁定を出しに行ったジャッジは、その友人に有利になるような不公平な裁定を行う、と思われてしまうからです。
■おわりに
この記事を読むことで、大会中にジャッジが何をし、どう動いているか、少しでも考慮してもらえたらと思います。だいたいにおいて、私たちは、最初に会場に来て、最後に会場を出る人々です。私たちが立ったまま長い週末を過ごすのも、ひとえに、このゲームを心から愛しているがゆえなのですから。
ペナルティを出すのを楽しんでいるジャッジはいません。もらいたくもない裁定をもらったプレイヤーから野次られるのが好きな人ジャッジもいません。ただ覚えていてほしいのです。楽しく、正しく、そして段取りよく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
以上になります。お読みいただきありがとうございました。
個人的に面白かったのは、中継卓でのシート記入。Regionalsクラスの大会では対戦卓中継が当たり前になったアメリカだからこその取り組みといえますが、僕も記事を読むまで知らなかったのでためになりました。
また、改めてですが、2日間で計30時間も動いているジャッジの方には、本当に頭が下がります。
余談になりますが、3年ほど前にも、別のジャッジ記事(http://ukinins.diarynote.jp/201411230944291387/)を訳したことがあります。もし興味があれば、併せてお読み下されば幸いです。
国内イベントも、今後はどんどんと大規模化・長時間化が進むかもしれません。ルールエキスパートの方も増えていますし、池袋での公認大会も近い今、ジャッジの方への敬意は常に忘れずにいたいものですね。
今回は対戦レポートや考察ではなく、ジャッジに関する記事です。
昨今はオーガナイザーやエキスパート資格の制定のせいもあってか、
国内でもジャッジの活動やルーリングが注目される機会が増えてきました。
今回の記事は、アメリカの大会で現役のジャッジとして活動している人からの寄稿になっています。
SixPrizesはじめ海外サイトでも、こういった記事は珍しいと思います。逆に言えば、ジャッジの方々の活動や考えが、こうしてプレイヤーの目に届く機会はあまりないかもしれません。
その意味でも今回の記事は興味深いですが、それ以上に、発見や、はっとすることも多い内容です。
ジャッジとして活動なさっている方はもちろん、現役のプレイヤーの方にも、ぜひ読んでいただけたらと思います。
いつもどおり、訳語の至らなさや誤訳の責任は、すべて僕うきにんに属します。
読みやすさを考慮して、訳文の省略や改行の変更を行った箇所があります。
(今回も例によって無許可翻訳なので、何かあればすぐに削除します)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
The Eyes from Above --An Op-Ed on the Experiences of a Judge in the Pokemon TCG Circuit
by Corey Scott
October 6th, 2017
ttps://sixprizes.com/2017/10/06/the-eyes-from-above/
こんにちは。Corey Scottと言います。今回、初めての記事をこうしてお届けできることを、非常に嬉しく思っています。ご存じないかたが多いとは思いますが、私は、われらが愛すべきポケモンカードの、ステージ2ジャッジをしています。先週末のHartford City Regionalsから、ジャッジ一筋のシーズン3年目を迎えました。
私のジャッジ暦ですが、2017年の世界大会と2017年北米選手権にジャッジとして参加し、Wisconsin Regionalsのシニアと、Origins Special Eventでヘッドジャッジを務めました。また、他にも2017年だけで、複数のイベントでフロアジャッジをしていますし、11月にはロンドンのヨーロッパ選手権にジャッジとして参加する予定です。加えてHartfordでは、マスターのセカンドヘッドジャッジを務めるという栄誉も授かりました。私のことはこれくらいにして、本題に入りましょう。
〔訳注:セカンドヘッドジャッジは、記事後半でも出てきますが、ヘッドジャッジの下、フロアジャッジの上という立ち位置〕
【原注】編集より:この記事に対して行われた編集作業は、読みやすさの向上のためだけであり、内容については一切手を加えていません。以下で行われている太字、強調、大文字化ならびにその他の文装飾や語句のわずかな変更は、編集作業の一環です。
■目的
今週の頭に、Doug Morisoliが、スリーブ関連で起こった出来事についてHeyFonteに投稿していました。この出来事のせいでトップ8が15分ほど遅れてしまっていたのです。この投稿の中で彼が挙げていた点について、私は数日間考え続けることになりました。
〔訳注:HeyFonteはFacebook上のグループコミュニティ〕
プレイヤーによるジャッジ批判はよくあることですし、時にはそれが正当なこともあります。ただし往々にして、いわゆる「舞台裏」、つまりジャッジが労を惜しまずにあらゆる視点を考慮し、プレイヤーの意見を擁護している、ということには、なかなか目が行かないものです。
確かに、何らかの問題が起こったとき、プレイヤーのコミュニティ側は真っ先にジャッジを批判しようとします。確かに私たちジャッジは、全員のそばについていることはできません。しかし私たちは、すべての参加者にとってゲームが確実に正しくプレイされるよう対処できる唯一の存在なのです。私たちの目標は、大会が、楽しく、正しく、段取りよく行われることなのです。
この記事を読むことで、プレイヤーにとって楽しいイベントの週末を、ジャッジが普段どのように過ごしているか、少しでも多く理解していただけたらと思います。
■ジャッジの週末
上述の通り、私は先週末、Hartford Regionalsのジャッジの一人でした。週末のサンプルとして、この大会を例に取りたいと思います。
〔訳注:Regionalsは、土曜がDay1、日曜がDay2(決勝トーナメント含む)という構成〕
私の週末は金曜の午前6時に始まります。この旅の同伴者は3人。途中の休憩も挟み、9時間ちょっとかかってHartfordへ到着です。ホテルにチェックインして荷物を下ろすと、大会会場へと向かいます。会場へ着くとすぐに登録へ。他の大会に行ったときに出会ったスタッフたちと挨拶を交わし、そして、必要なことは何でも手伝いをします。スタッフたちは、テーブル番号札を取り出したり、テーブルを拭いたり、賞品を整理したりしています。
私は喜んでテーブルクロスを敷いていきました。それが終わった後、イベント主催者に会うことができました――この週末、その下で働くことになる人です。それから、スタッフたちの会食へと向かいました。会食後には、夜8時から10時まで、大会で起こりうる様々なことについてスタッフたちで打合せ。そして部屋へと帰りました。
シャワーを浴び、ベッドにもぐり込み、今回ルームメイトになったジャッジと簡単なおしゃべりをしていると、時間は深夜12時30分。そこでようやく、私は眠りにつきました。
〔訳注:イベント主催者は、記事原文ではTO(Tournament Organizer)という表記〕
土曜日が来て、ルームメイトのアラームの音で5時に起こされました。ルームメイトはそのままシャワーへ行き、私は5時45分ごろにベッドから抜け出すと、よろめくように部屋の中を動きながらその日の準備をします。準備が済むと、6時半のミーティングのため会場へと向かいます。スタッフたちはコーヒー片手に会場入りし、動き方の指示を待ちます。
ミーティングは、イベント全体のヘッドジャッジ、各ディビジョンのヘッドジャッジ、そしてイベント主催者も交えて行われます。それが済むとスタッフは、選手受付のプロセスにそれぞれ配置されます。並び列のコントロールがあり、スマートフォンを用いた受付があり、そしてデッキチェックが続きます(リストに記入されたデッキが60枚あるかを数え、エキスパンションとコレクションナンバーが書かれているかを確認し、それらがスタンダードで使えるカードかを確かめます)。
受付が終わると、一斉に大会が始まります。ここにいる全員にとって、長丁場の始まりです。プレイヤーは1日に9ラウンドをこなします。が、それはジャッジにとっても同じなのです。
ほとんどの時間、ジャッジは立ちっぱなしです――ラウンドの合間を除けば、ですが、ようやく座れるかという時間は、ラウンド中に起こった問題についてのジャッジミーティングの時間、兼、足を休めている時間、ということになります。対戦時間中は、ジャッジは対戦テーブルを巡回し、問題が起きていないかを確かめ、ルーリングや質問に備えます。そして必要とあれば、ペナルティの裁定を行います。
運よく、この大会では昼食休憩の時間が設けられたので、ジャッジもプレイヤーたちと同じ時間に外で昼食を取ることができました。そして予選の9ラウンドが終わると、スタンディングが出揃い、プレイヤーたちは賞品を受け取って会場を出ます。
しかしそれらの間も、ジャッジは会場に残っています。会場にまだ残っているプレイヤーがいないか、賞品をもらい忘れているプレイヤーはいないか、そして、翌日の入場時間をプレイヤーたちがきちんと認識しているかを確かめるためです。私の場合、その日ホテルに戻ったのは夜の10時半ごろでした。夕食に行くことができたのはそれからです。
日曜日の起床時間は朝の6時。シャワーを浴びて準備をします。ジャッジの集合時間は7時半。会場に集まると、ジャッジはそれぞれの配置につきます。昨日の土曜日の段階では、マスターには20人を超えるジャッジが配置されていました。が、日曜日は、7人を残して他のジャッジはすべて、サイドイベントに配置されました。
それぞれ持ち場につくと、土曜に起こったできごとと、日曜はどのように対処していくかについてミーティングを行います。前日も長い一日を過ごしてきたジャッジたちは、ミーティングのあと、軽く準備体操をして2日目に備えました。ありがたくも私は、マスターのTop32の担当になりました。つまりは少なくとも、あと予選5ラウンドのあいだは、しっかり立っていなければならないわけです。
最終の予選スタンディングが掲示され、誰がトップ8に残って戦い続けているのか見られるようになりました。そして私は決勝トーナメントで、トップ8、準決勝、そして決勝の中継卓をジャッジしたのです。決勝戦が終わって新しいチャンピオンを祝福すると、1日の終わり、諸々を片付けるときです。私がホテルに帰ったのは夜の8時でした。
この週末の最後の最後は、月曜日、オハイオの自宅まで9時間のドライブです。そして家に着き、荷物を下ろした私は……店舗大会へポケモンカードをやりに行ったのでした。
振り返ってみれば、金曜日に9時間かけて大会へ行き、準備とミーティングを5時間行い、土曜日に16時間、日曜日には12時間半イベント会場にいて、そして月曜に9時間かけて車で家に帰りました。トータルでは28時間ものあいだ会場にいたわけです。しかしこれは、2~3時間の差こそあれ、大会でジャッジを務める場合の、非常によくある例なのです。
■中継卓でジャッジをするということ
ジャッジの中には、中継卓でジャッジを行うのを非常に嫌う人もいます。その一方で、中継卓でジャッジできるなんて名誉なことだと考えるジャッジもいます。対戦中、あなたの顔はカメラに登場し、中継卓でジャッジするにふさわしい人物として映ります。そして、足を休めることもできます。
しかしながら、中継卓でのジャッジは、フロアジャッジよりもずっと厄介だと言うジャッジもいます。中継卓でのジャッジは、いわば火中の栗のようなものです。もしプレイヤーがミスを犯したときジャッジがそれを見落としでもしたら、プレイヤーはそのミスのせいで、コミュニティ内で笑われ恥ずかしい思いをするでしょう。
私個人は、中継卓や対戦卓に張り付きでジャッジをするのは、フロアを歩き回ってジャッジをするのとは別のスキルだと思っています。プレイヤーが前のターンとこのターンに何をし、そして彼らのプレイがゲームをどのように進行させたかを覚えておくのは、フロアジャッジよりもつらい仕事です。
私を含め、ジャッジの多くは、プレイヤーのターン中に何が行われたかをメモしておくためのテーブルジャッジシートを作るようにしています。たとえば、エネルギーを貼ったか、攻撃をしたか、逃げるをしたか、サポートを使ったかどうか、などです。
これらの項目はすべて、行われたかどうかを知っておくのが重要なことだからです。
対戦中継のときは、私は、自分のシートの中に、サポートはS、エネルギーはE、ワザはA、というふうに項目を作っています。
サポートの行には、そのターンに何のサポートを使ったか、そしてEの列には何のエネルギーを貼ったかを書き込みます――たとえば、もしピーピーマックスでエネルギーをつけた場合も、私はメモするようにしています――そして、Aのところには、何のワザを使ったかを書いておきます。また、ワザでエネをつけたならそれもメモしますし、相手ポケモンを倒したなら何枚のサイドを取ったかも書いておきます。
〔訳注:ワザがAなのは、"attack"の頭文字〕
Hartfordでは、それぞれひとつひとつの対戦が、私にとっては違ったものでした。トップ8はSam Chen対Ryan Sabelhausでしたが、私にとっては、中継卓ジャッジをするにはもっとも気楽な対戦でした。この二人のプレイヤーはお互いをよく知っている友人同士で、対戦中もひっきりなしにおしゃべりしていました。終始明るく、ジャッジもやりやすい対戦でした。
〔訳注:Sam ChenもRyan Sabelhausも、どちらも名の知られた強豪プレイヤー〕
準決勝で、私は難しい場面に突き当たりました。対戦プレイヤーはどちらも物静かで、会話もほとんどありません。この対戦で私は、対戦卓に張り付くような立ち位置ではなかったため、彼らの行動をメモしていませんでした。Nがプレイされ、お互いがデッキをシャッフルをしている間などは、完全に集中力が切れていました。それでも私は、対戦中はずっと、冷静さを保ち、注意して見ている必要がありました。この対戦では、片方のプレイヤーが、実際には倒していないのに相手ポケモンを倒したと勘違いする、というミスプレイをうまく見つけることができました。
決勝のときは、いわば、もう一度自分のほうに風が吹いてきました。体力が戻り、準備は万端でした。私はテーブルに付くほうを選んだので、プレイヤーたちの行動を書き記すことができました。私はそれこそテーブルジャッジとしての私の強みだと感じました。このマッチでは、前のターンにかげぬいを使われていたにも関わらずスチームアップを使おうとしていたプレイヤーを止めることができました。総じてこの決勝トーナメントは、うまくいったと思います。
■ルーリング
このセクションは、それ自体でひとつの記事にできると思います。というのもルーリングには多くの視点があり、それぞれを話題にできるからです。しかしここでは、多少ほかのことには触れつつも、ルーリングそれ自体、つまり、指揮系統、そしてプレイヤーとの関わりについてのみ語りたいと思います。
ルーリングは、ポケカにおいては不可避的に発生するものです。プレイヤーは、ルールでは許されていない行動を取ることがあります。つまり、余分なカードを引いたり、使えないときに特性を使ったり、サイドを引きすぎたり、もしくは対戦開始時にサイドを置くのを忘れたり、です。これらにはさまざまなペナルティが伴います。
やみくもにペナルティを出すのはジャッジの仕事ではありません。大会の公平さを可能なかぎり保つことこそがジャッジの仕事です。大会ではペナルティガイドラインが一番のお供です。どのような違反がどのようなペナルティに該当するのか、端的な例を示してくれるからです。
その点に関して言えば、ペナルティに該当したプレイヤーにそのペナルティを与え、管理するのが私の仕事になります。
ペナルティの裏側には指揮系統があります。イベントにおいて、ジャッジは階層分けされています。対戦中、通路を歩き、プレイヤーの手がテーブルより上に上がっているかをチェックしたり、対戦の状況を見たりしているのがフロアジャッジ。多くの場合、プレイヤー間で何かが起こったときに最初に出てくるのがフロアジャッジです。そして多くの場合、フロアジャッジは、セカンドジャッジやヘッドジャッジとの相談までは行かずに、警告を与えるに留まります。
もしもその状況が、サイドペナルティや、より上位のペナルティに該当しそうならば、フロアジャッジは「セカンド」ジャッジやヘッドジャッジを捕まえ、判断を仰ぎます。
セカンドジャッジたちは、ヘッドジャッジに掛かる負担を軽減するために配置されています。セカンドジャッジは、サイドペナルティやゲームロスを承認することができ、そうすることで、20人以上いるジャッジたちが一人のヘッドジャッジに同時にばらばらの質問をぶつけるのを防ぐことができるのです。そしてヘッドジャッジは、各ディビジョンにおける最終決定者です。ヘッドジャッジの言葉が全てなのです。
フロアジャッジはペナルティに対処する際、ペナルティを受けようとしているプレイヤーが、ヘッドジャッジに対してアピールしたいかどうかを確認しなければなりません。したいと答えたならば、ヘッドジャッジが状況を調べるために呼ばれ、フロアジャッジのルーリングが正しいかどうかが判断されます。
ただし経験上、ヘッドジャッジはたいてい、その状況で何が起こっているかは知っています。というのもフロアジャッジは、プレイヤーが望まないようなペナルティを出す際には承認を得なければならないからです――警告に対して不平を言うプレイヤーはほとんどいませんが。それでもヘッドジャッジは出向き、プレイヤーと話し、裁定を変えてしまうような見落としをフロアジャッジがしていないかを確認するのです。
プレイヤーとの関わり合いは、常に、ジャッジの視点とはまったく別のものです。大会に行けばジャッジの多くは友人と出会いますし、嫌いなプレイヤーもいます。ただ、ほとんどのプレイヤーは、今まで会ったことのない、まったくの他人です。しかしながら、すべてのプレイヤーを、偏見なく公平に扱うのがジャッジの仕事です。
ただ、これができないジャッジがいるのもわかっています。ラウンドの合間のジャッジミーティングに、ふらりとプレイヤーが現れたことがありました。すると、とあるジャッジが言うのです。「ああ、この人は僕の担当エリアにいたんだ。何てことないよ」。ですが、全体の枠組みというものがあるのです――我々はあなたのエリアなんて知ったことではない。私たちは、大きな額のお金が動く大会にいるのです。
それだけでなく、ジャッジは、過去に良くない対処の仕方をしたプレイヤーに対しても、偏見を示してはいけません。たとえば、ソーシャルメディア上で揉めたことのあるプレイヤーに対しても、ルーリングの上では何ら違いがあってはならないのです。Hartfordでは、大会中ジャッジは、友人とハグしたりハイタッチしてはいけないと強く言われていました。なぜでしょうか? それはもしもプレイヤーがそれを見ていたら、友人の対戦に裁定を出しに行ったジャッジは、その友人に有利になるような不公平な裁定を行う、と思われてしまうからです。
■おわりに
この記事を読むことで、大会中にジャッジが何をし、どう動いているか、少しでも考慮してもらえたらと思います。だいたいにおいて、私たちは、最初に会場に来て、最後に会場を出る人々です。私たちが立ったまま長い週末を過ごすのも、ひとえに、このゲームを心から愛しているがゆえなのですから。
ペナルティを出すのを楽しんでいるジャッジはいません。もらいたくもない裁定をもらったプレイヤーから野次られるのが好きな人ジャッジもいません。ただ覚えていてほしいのです。楽しく、正しく、そして段取りよく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
以上になります。お読みいただきありがとうございました。
個人的に面白かったのは、中継卓でのシート記入。Regionalsクラスの大会では対戦卓中継が当たり前になったアメリカだからこその取り組みといえますが、僕も記事を読むまで知らなかったのでためになりました。
また、改めてですが、2日間で計30時間も動いているジャッジの方には、本当に頭が下がります。
余談になりますが、3年ほど前にも、別のジャッジ記事(http://ukinins.diarynote.jp/201411230944291387/)を訳したことがあります。もし興味があれば、併せてお読み下されば幸いです。
国内イベントも、今後はどんどんと大規模化・長時間化が進むかもしれません。ルールエキスパートの方も増えていますし、池袋での公認大会も近い今、ジャッジの方への敬意は常に忘れずにいたいものですね。
コメント
自主イベントや公式イベントでジャッジしたことも有るのですが、
これを読むと、自分がしていたのは「観戦」レベルで恥ずかしい物でした。
自分の怪しい記憶に頼るよりメモ!勉強になりました。
お読みいただきありがとうございます。
僕も今回ルールエキスパートを取ったので、参考……というよりは勉強の気持ちで読んでいました。国内でも活かせる部分は活かしたいですね。
うきにんさんのホウオウダストのデッキレシピを参考にさせていただきました。ありがとうございます。翻訳記事もとても勉強になり、今後も拝見させていただきたいと思います。
リンクいただいていきます。
初めまして。記事お読みいただき、またデッキまでご参考にして頂き、本当にありがとうございます。
リンクお返しいたしました。