【翻訳】50分+3ターン制の致命的な欠陥について
 今回はThe Top Cutから。
 約3ヶ月前、スイスラウンドで行われる海外大会が、1マッチ3ゲーム制、50分+追加3ターン制に移行したことと、その反応についての記事(http://ukinins.diarynote.jp/201311051833135718/)を訳しました。
 3ゲーム制の50分+追加3ターン制とは、端的に説明すれば、
・50分で3ゲーム行い、2ゲーム取ったほうがそのマッチに勝利。
・途中で時間切れになったゲームはノーカウント。そこまでの成績で決める(=2ゲーム目で時間切れになったら1ゲーム目の勝者がマッチの勝者。3ゲーム目で時間切れになったら引き分け)
 というものです(詳しくは上のリンク先をご覧ください)。
 上の記事は制度移行直後のものでしたが、主な反応は、2本先取になったことで運要素が減るのはうれしいけれど、いろいろ大変になるなあ……というものでした。

 あれから3ヶ月。実際にこの制度をしばらく経験した上での、この制度に関する記事が登場しました。
 著者はJason Klaczynski。去年の世界大会優勝者にして合計3度の世界大会優勝者という、説明不要の最強プレイヤーです。
 記事の内容は、この制度に対する激烈な批判。
 この制度の何が駄目だったのか、そして、プレイヤーはどう感じているのか。
 システム自体は日本と違えど、日本のプレイヤーにとっても、まったく無関係の内容ではないと思います。

 いつもどおり、訳語の至らなさや誤訳の責任は、すべて僕うきにんに属します。
 読みやすさを考慮して、改行を変更した部分があります。
(今回も例によって無許可翻訳なので、何かあればすぐに削除します)

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

Five Fatal Flaws of 50+3
by Jason Klaczynski
Wednesday, January 29, 2014
ttp://thetopcut.net/2014/01/29/five-fatal-flaws-of-503/


 たいていのカードゲームと同様、ポケカは運の要素に満ちている。ときに幸運の女神はあなたの側に来て、完璧な手札を引き込むだろう。またあるときには幸運の女神は機嫌を損ね、あなたは初手で、ゼニガメ1枚とエネ6枚を引いてしまう。ひどい初手を引くとことは、まともにプレイできないということを意味する。それゆえポケカコミュニティが、今シーズン、大規模大会ではスイスラウンドに3ゲーム制を採用するというアナウンスを好意的に受け入れたのも、驚くにはあたらない。しかしながら、ひとつ問題があった。3戦まとめてプレイできるだけの時間は、与えてもらえなかったのだ!

 わずか50分と3ターン、そしてシャッフルと対戦準備には2分しか許されないという状況にあっては、3ゲーム制だと、1ゲームあたり平均すればたった15分(と1ターン)しか与えられないということになる! これがどれだけ短いのかを示すためには、何年ものあいだ広く受け入れられていた1試合の時間制限は30分であり、そしてそれでもなお、多くの試合では時間を使い果たしていたというのを思い出してもらいたい。50分+3ターン制の下では、ゲームは多くの場合で、もっと早い段階で時間切れを迎えてしまうだろう。決着のついていないチェスの対局やモノポリーのゲームが打ち切られたり、あるいは野球の試合が突然6回で中止されたりしたら、がっかりしてしまうし面白くもない。ポケカもそれと同じだ。時間制限の短さは、ポケカから面白さを抜き取ってしまう。

 50分+3ターン制がマジで酷い要素を5つ見てみよう。

1.ほぼ5試合のうち1試合が、引き分けに終わっている

 新規導入されたこの時間制限が、直近のRegionalsでその不適格ぶりを証明したところで、当然ながらポケカコミュニティにとっては驚くにあたらなかった。そこでは5試合に1試合が引き分けになってしまっていたが、理由は単純に、3ゲーム目を終わらせるだけの時間がないからだ。5試合に1試合の引き分けというのがそこまで多いと感じられないならば、注意してもらいたいのだが、これは3ゲーム目までもつれ込んだマッチだけでなく、すべてのマッチを含んだ数だ、ということだ(3ゲーム目までもつれ込んだマッチだけに限れば、引き分けの割合はもっと上がり、おそらく50%ぐらいになる)。加えて、50分以内に収まったマッチでも、必死になって時間を残すために、多くのプレイヤーは高速プレイを余儀なくされたし、まだ勝てる可能性の残るゲームを投了したりもした。なかには、引き分けになりそうだったのに片方の勝ちとして記録された対戦さえもあるが、それはお互いのプレイヤーが心に決めた上で、勝ち点1を避けるためにある種の合意を形成し、片方がもう片方に投了した、というものだ。

 引き分けはつまらない。引き分けは結末を欠く物語のようなものだ。50分制のマッチにとっては、引き分けは残念な終わり方だ。しかも、引き分けでは両プレイヤーにはわずか勝ち点1しか与えられない(勝利3、敗北0)。両者に1点というのは、負けよりはわずかにマシというだけに過ぎず、だいたいの場合は両者のトップ8入りの可能性を狭めている。たとえば最近のフロリダのRegional Championshipでは、手堅く8勝1敗5分の成績を残したプレイヤーがトップ8入りを逃した。何てこった! その理由は引き分けにした5試合で上手くプレイできなかったからなのだろうか? まさか! もし十分な時間があれば、その5試合すべてに勝つことだってできたかもしれないのに!

2.無意味な途中終了のゲームをやる破目になる

 こういう場面を思い描こう。3ゲーム制の対戦で、あなたと対戦相手は1ゲームずつ取っており、いま3ゲーム目を始めたところだ。相手のゲノセクトEXが速攻でサイドを何枚か取ってきて、まず相手が序盤のリードを奪った。だが、あなたはタイミングを見計らったNを打って巻き返しを図り、相手のゲノセクトEXを倒した。そしてあなたは大きな巻き返しを見せ、ゲームに勝とうとしていた、まさにそのとき、時間切れが告げられる。エクストラ3ターンが経っても、最後のサイドを引ききるにはあと1ターン足りなかった。そして対戦は引き分けが宣告される。

 こんなあっけない幕切れが、50分+3ターン制ではあまりにありふれている。事実上、2-0か2-1で終わらなかったあらゆる対戦は、あなたと対戦相手が、何もカウントされない途中終了のゲームをやったということになる。悲しい話じゃないか! プレイヤーがポケカをやっているのは、それが楽しいからだ。国内や世界を旅して大会に出るのは、そこですばらしい対戦をしたいからだ。50分+3ターン制は、この体験をプレイヤーから奪ってしまう。この制度は、本来的にポケカが持っているすばらしい決着を、プレイヤーから奪い取ってしまうのだ。

3.遅延プレイを助長してしまう

 ポケカではこれまでずっと、大会での遅延プレイが問題であり続けてきた。自分のターンにやることが多くあり、そして山札へのアクセス手段がそれだけあると、残念ながら、時間を浪費する方法はたくさん生まれてしまう。50分+3ターン制は、プレイを遅くしたくなる場面を絶えず生み出すがゆえに、この問題を悪化させてしまう。

 こんな筋書きを想像してほしい。あなたはカメックス/ケルディオ/ブラックキュレムを使っていて、いまは3ゲーム目だ。あなたは1ターン目にベンチにゼニガメを置き、相手は1ターン目に、バトル場のビリジオンEXにエネルギーを貼ってきた。2ターン目、あなたはアメでカメックスを立て、バトル場にいたブラックキュレムEXにばくりゅうでエネをつけ、ブラックバリスタでビリジオンEXを倒した。相手の場にはエネルギーがなくなり、相手の勝つ見込みはほぼなくなった。

 だが、ひとつだけ問題がある。ここまでのゲームカウントを鑑みれば、このマッチを引き分けにするには、対戦相手にとってみれば、このゲームを終わらせなければいいのだ。残り時間が10分ということで、相手は戦法を切り替え、バトル場にはEXの代わりに非EXポケモンを送り出してきた。これで毎ターン、あなたはサイド2枚でなく1枚ずつしか引けなくなった。相手は、ハイパーボールやレベルボールや、そういったカードを使って山札をサーチし、デッキをシャッフルすることもできる。あらゆる手段で、時間を消費するために(そしてそれらは何ら不法な手段ではなく、ルール通りの戦術なのだ)。そして10分後、もしあなたがサイド6枚を引き切ることができなければ、このゲームは全くの無駄に終わり、マッチは引き分けで終了する。このような失望的な決着が、50分+3ターン制では信じられないほど多く起こるのだ。

 これと同様のシチュエーションが、1ゲーム目を長くかかって勝ったときにも起こりうる(そして実際よく起こっている)。もし1ゲーム目で20分以上消費していれば(それもよくあることだが)、勝った側は、もはや2ゲーム目で早くプレイする意味はどこにもない。このマッチを勝ちにするには2ゲーム目を取る必要は全くなく、むしろ負けなければいいだけなのだ。たとえ1ゲーム目に負けた側のプレイヤーが、50分+3ターン経過後に5枚のサイドを取っていても、6枚取りきられていなければ、そのマッチは1ゲーム目を取った側の勝利で終わる。1ゲーム目の勝者が、2ゲーム目で何枚サイドを取ったかとは関係なく、だ。

 ジャッジは当然50分+3ターン制で遅延問題が起こってきたことを認識していて、今ではプレイヤーを急かさなければいけない立場にいっそう置かれている。ジャッジのなかには、以前ならそこまで厳しくも一般的でもなかったプレイ速度ガイドラインを厳しく強いてくる人もいて、プレイヤーにストレスを与えている。とはいえ、ガイドラインがどれだけ厳しく敷かれようとも、そしてどれだけ早くプレイしても、対戦相手は、15分かそれ以内の時間でゲームが終わらないようにやるのは可能なのだ(たいていの場合3ゲーム目は、これ以下の時間しか残っていない状態で始まるというのに!)。この時間制限は、端的に言って短すぎるのだ。

4.デッキの創造性や多様性を奪ってしまう

 プレイ時間がこれだけ短いと、時間のかかる戦術のデッキは不利な立場になる。他デッキよりも勝つために時間のかかるデッキにとっては、1ゲーム目での敗北は、2ゲーム目での時間不足がありうる以上、多くの場合でマッチ自体の負けを意味する。このひとつの例がサザンドラデッキであり、何ターンにもわたって、ヤミラミのジャンクハントや回復を使って、ゆっくりと勝ちに行くからだ。もし対戦時間がもっと長くあれば、現行のスタンダードの広いカードプールから、創造性や多様性をもっと受け取ることができるはずなのだが。

5.倫理上の/スポーツマンシップ上のジレンマを引き起こす

 こういう場面を想像してほしい。あなたは現在Regional Championshipで6勝2敗2分(勝ち点20)の成績にあり、いま11ラウンド目だ。噂によれば、トップ8に進むには最低でも勝ち点28が必要らしい。あと3ラウンドしか残っていないため、トップ8入りのためには、残る3ラウンドをすべて勝つ必要がある。そして対戦相手も勝ち点20で、同じ状況にあった。50分後、あなたは3ゲーム目をやっていて対戦は終了しておらず、つまりこのマッチは引き分けで終わりそうだった。だが、あなたも対戦相手も気づいているのだが、ここで引き分けに終われば、どちらもトップ8の可能性は消えるだろう。だがどちらかがここで投了すれば、勝者にはまだトップ8の目が残る。さて、片方が投了してもう片方にトップ8の目を残すのは、フェアプレイの精神に則っているのだろうか? それとも、投了することで本来は勝てなかった側を勝たせ、本来勝っていたはずの側をトップ8の可能性から弾き出してしまうのは、フェアプレイの精神に反することだろうか? そして、もし片方が投了するとして、投了する側はどうやって決めるのだろうか? サイド差? それも同じだったら? あるいは、今はサイド差で負けていても、明らかにこのままゲームに勝てそうだったとしたら?

 プレイヤーは、引き分けが自分たちや相手を駄目にするとわかっている。だが、それでも何らかの合意に達するのは不可能だし、ときには勝者を決める上で、コインを投げたりさえもする!(実際これはルール違反だが、それでもジャッジがこれを防ぎ切るのは難しい) お分かりの通り、制限時間の不足は、大量の問題を生み出すだけでなく、スポーツマンシップ的にグレーゾーンな、奇怪な状況をも作り出す。そしてその問題は、対戦の外にいるプレイヤーにさえも及ぶのだ。

 まとめると、3ゲーム制が失敗である理由は、

1.ほぼ5試合に1試合が引き分けに終わっている。両方のプレイヤーにとって不満な結果となるだけでなく、取れたはずの勝ち点3でなく1点しか与えられない。その結果、多くの場合でトップ8入りの可能性を狭めてしまう。
2.第3ゲーム目の多くが(ときには2ゲーム目も)制限時間内に終わらず、そうなると対戦成立としてカウントされない。そのため、プレイヤーは途中終了の無意味なゲームを行うことになる。
3.遅延行為を助長するような状況を絶えず作り出し、しかもジャッジがそれを防ぐのは難しい。
4.速度の遅いデッキが競技レベルで戦える可能性を狭め、大会でのデッキの多様性を低くしてしまう。
5.スポーツマンシップとフェアプレイ精神が衝突してしまうような、奇怪な状況を生み出してしまう。

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 以上になります。お読みいただきありがとうございました。
 このあとも記事は続くのですが、これ以降はJasonの提示する新システム案なので、今回は割愛しました。
 ちなみにJasonの新システム案は、簡潔にまとめれば、1ゲーム30分制か3ゲーム75分制にしよう、というものです。

 考え方は人それぞれなのでしょうけれど、お読みになったとおり、概してこの現行制度の評判は良くないのだと思います。
 日本とはさまざまな部分で違いますが、考え方の面では、共通するところが多くあるのではないでしょうか。訳の上では割愛しましたが、この記事の最後は、「問題については、見えるところで議論をしよう。それは会社側にも届く」という形で締めくくられています。
 日本の場合は、公式サイトにお問い合わせ窓口があります。DiaryNote的にはルールの細かい部分を突かれまくって可哀想なwお問い合わせ窓口ですが、大会制度やイベント進行のことなど、カード外の部分でも、気になることがあればどんどん要望を送ってみてはいかがでしょうか。

コメント

みれ
2014年2月2日20:58

公表された瞬間から、とっても問題があるルールだと思ってました。
Jasonさんが言っているような戦略・戦術的な部分はもちろん、運営面でも長時間化や参加者・スタッフの体力的な疲弊など問題はいくらでも起こると思ってます。
トーナメントならともかく、スイスドローでそこまで運を排除する必要性はあるんですかね?

>ひみつ
行く予定もないのに、それに適したデッキをいろいろ考えております。(笑
今はヤミラミがお友達ですね。

うきにん
2014年2月2日22:35

>>みれさん
これまでのシステムから現行のシステムに移行することにした理由が気になりますね。
シングルエリミはサイド差で決めるけど、スイスはサイド差が無関係というあたりに、なんとも折衷案めいた妥協感が漂ってます。
大会の長時間化は、地味ですが相当にキツい問題ですよね。夜中までやってたみたいな話をけっこう見るんですが、WCSはどうなるんでしょうw

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